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連載

矢月秀作「プラチナゴールド」 vol.24

【連載小説】何かを隠すような無人の会社!? ──女性刑事二人が特殊犯罪に挑む。 矢月秀作「プラチナゴールド」#7-2

矢月秀作「プラチナゴールド」

※本記事は連載小説です。
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     2

 つばきたちは、左右田ら仕手に関わる者たちから聞いた、永正鉱業社以外の会社も調べてみた。
 それぞれ、永正鉱業社のようになんらかの資金が投入され、株価は短期で乱高下している。
 ただ、永正鉱業社と違うのは、特別な材料はないものの経営自体は健全だったり、IRを乱発してアピールしたりしている。
 永正鉱業社のように、実態も知れないまま値上がりを続けている会社は他になかった。
 仕手筋の連中がおかしいと感じるのも確かだし、乱高下はなく、右肩で上がり続けているところに不気味さを覚えるのもわかる。
 つばきは永正鉱業社に的を絞り、調べることにした。
 まずは、永正鉱業社の経営実態を探ること。出入りしている業者を特定するため、張り込みを開始した。
 会社前の道路から外れた、少し離れた路地に車を入れ、正面門をじっと監視する日々が続く。
 朝から晩まで張りついて、丸三日がっていた。
「全然、誰も来ないですねー」
 助手席でりおがあくびをした。
 二日目までは、張り込みに刑事らしさを感じ、あんパンと牛乳を買ってきたりしてノリノリだったが、さすがに三日を過ぎると疲れ、飽きてきたようだった。
「やっぱり、ここ、稼働してないんじゃないですか?」
 りおはコンパクトを出して、化粧直しを始めた。
「ちゃんと見てな」
「見てますよー。ていうか、車とか人が来たら、すぐにわかります」
 りおが言う。
 確かに、張り込みを始めてから、正門はまったく開いていない。人もいなければ、車もほとんど通らない。
 りおの言うように、稼働していない可能性も高い。
 つばきはスマートフォンを出した。写真で記録していた永正鉱業社の登記簿に記されている電話番号を記憶し、自分の番号は非通知にして電話をしてみる。
「どこにかけてるんですか?」
「しっ」
 つばきは人差し指を鼻先に立てた。
 呼び出し音が鳴り始める。二回、三回、四回……。誰かが出る気配はない。
 プレハブ小屋に目を向けるが、人が動く気配もなく、七回鳴ったところで、留守番電話に切り替わった。仕事の依頼内容を入れておけば、折り返し電話するというメッセージだった。
 つばきは電話を切った。
「動いてないね」
「会社に電話してたんですか?」
 りおの問いにうなずく。
「やっぱ、ここに人はいないんですよ。いくら見張ってても無駄っぽいですね。他の捜査しましょうよ」
 りおはじれたように言う。
「そうだな……」
 が、つばきはちゅうちょした。
 会社の状態や電話の様子からすると、完全に開店休業状態としか思えない。
 しかし、株価は上がっている。自社株買いやTOBといったIR情報も出ていないのに株価だけ上がり続けている状況は、説明がつかない。
 何かある……と、つばきの勘がうずく。
 と、りおがドアを開けた。
「私、ちょっと見てきます」
「何を?」
「会社です。声をかけたら、誰か出てくるかもしれないじゃないですか。じっとしてるのも退屈だし」
 りおは言うと、車を降りた。
「ちょっと待て」
 座ったまま声をかける。
 りおは車内をのぞき込んだ。
「任せてください」
 ウインクをし、ドアを閉めて小走りで正門へ向かう。
「おい! まったく……」
 つばきはため息をついた。
 もし、敷地内に誰かがいれば、自分たちが見張っていることがバレてしまう。そうなると、今後の張り込みは難しくなる。
 とはいえ、りおの言うように、このまま張り込みを続けるのも、時間の無駄のような気がする。

▶#7-3へつづく


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