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カドブン×note ショートストーリー投稿コンテスト「#一駅ぶんのおどろき」 vol.8

カドブン×note ショートストーリー投稿コンテスト #一駅ぶんのおどろき 優秀作品⑥「日曜日、フードコートの片隅で」

カドブン×note ショートストーリー投稿コンテスト「#一駅ぶんのおどろき」

noteさんとカドブンのコラボ企画「#一駅ぶんのおどろき」から受賞作を掲載!
第8回は優秀賞を受賞した戸山文さんの「日曜日、フードコートの片隅で」です。

 ◆ ◆ ◆

「日曜日、フードコートの片隅で」

私は主婦です。平日は働いているから、日曜日は郊外のショッピングモールに買い出しに出かけます。ついでに子供達をゲームコーナーで遊ばせた後、フードコートでクレープを食べさせる。日曜日は混むから午前中に行っておやつを食べて帰ってくる。毎週、そんな感じです。

それで気づいちゃったのよ。いつもフードコートのはじっこで、クロスワードパズルをしているおじいさんがいるのです。何を食べるわけでもなく、混む前のフードコートのテーブルに座って、ずっとクロスワードパズルを解いている。一度気づいてからは毎回意識してしまうようになりました。あ、今週もいる。また今週もいる。人の生活リズムってある程度は決まっていて一日、一週間単位で同じことを繰り返してるのかもしれない。知らない人達とも実は気づかないだけで定期的にすれ違ってるかもしれない。

もし、あなたがこの文章を平日の電車で読んでいるのなら、次の駅に着くまでの一駅ぶん、周りの人を見てみてください。明日も同じ人に会えるかもしれない。平日こそ、同じことの繰り返しでしょう。知らない人だと思っているのはあなただけで、相手はあなたのことを知っているかもしれない。

私は通勤電車で毎朝見かける女子大生がTwitterをしているのがたまたま目に入っちゃったことがあります。「おやじ、マジ臭い」とつぶやいていた。電車を降りてから”おやじ、マジ臭い”と検索したらアカウントがばっちり判明。満員電車とおやじ達への呪詛(じゅそ)に特化したアカウントだった。もちろんフォローしましたとも。だって毎朝同じ電車に乗っているかもしれないのよ。毎朝そんな儀式が身近で行われているってすごいでしょう。その気になればあの呪詛大生、いや女子大生の素性を特定できると思う。

痴漢や車内暴力も繰り返せば足がつくはず。逆に親切なことをすれば、たちまち美談が生まれる。満員電車では良くも悪くも神経が尖るのよ。

この前、その呪詛大生が痴漢に遭っていたのよ。目の前で。それで周りの人と協力して現行犯逮捕に至りました。後日、彼女がお礼をしたいとバイト先に呼んでくれたんです。そしたらなんとあのフードコートのクレープ屋さんだったのよ。彼女、早くにご両親を亡くされてバイトをしながら大学に通っているんですって。優しいおじい様と二人暮らしで。
おじい様はいつもバイトが終わるまでクロスワードパズルを解きながら待っていてくれるんですって。

 ◇ ◇ ◇

どこか冷めた書き方と「美談」という言葉の不穏さで、
ただのいい話に終わらせていないところが見事です。

戸山文さんのnoteはこちら
https://note.com/toyamahumi


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