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特集

「このミス」大賞隠し玉はSNS犯罪&サスペンス&どんでん返しの福袋!『スマホを落としただけなのに』

取材・文:小説野性時代編集部 

スマホ、落としたことありませんか? いまやスマホは、単なる通信手段にとどまらない、個人情報の宝庫となりました。万が一、自分のスマホが悪用されたら……。
そんな身近な恐怖をエンタメ小説に見事に昇華させた、いま注目の新人作家に迫ります!

── : デビューまでの経緯を教えていただけますか?

志駕:  小説自体を書き始めたのは早くて、中学生くらいからショートショートのようなものを書いていました。星新一さんが大好きで。あとは漫画なんかも描いていましたね。  ただ社会人になってからは、ラジオのディレクターの仕事が忙しくて小説からは遠ざかっていました。ディレクター時代は「オールナイトニッポン」はもちろん、朝から夜までいろんな番組をひと通り担当して、とにかく忙しかったので。  また書き始めたのは、管理職になって現場から離れてからですね。とにかくなにか作っていないと気が済まない性分みたいで。

── : それでデビューされたのが本作ですね。ある男性がタクシーのなかでスマホを落とし、それがハッカーの手に渡り……という話ですが、着想はどこから得られたのでしょう?

志駕:  自分自身、スマホを落としたことがあるんですよ。そういう経験って誰しもあると思うんですね。私の場合は、最終的に警察やタクシー会社で見つかったんですけど、それを悪用したらどうなるだろう、と。最初にロックを解除するところまで思いつくと、もうあとは犯罪者の気分でどこまでも(笑)。

── : 犯人はSNSを巧みに使って主人公の女性を追い詰めていきます。スマホやPCまわりの最新の情報がどんどん出てきますが、もともとIT関係にはお詳しかったのですか?

志駕:  それが全然(笑)。書く前まではラインもツイッターも碌にやっていなかった。フェイスブックをちょこちょこやっていたくらいで。このためにちゃんとやり始めたんです。  作中に「ランサムウエア(コンピューター・ウイルスなど悪質なソフトウエアの一種)」や「(ダーク)ウェブ(サイバー犯罪者たちが跋扈する闇の空間)」というのが出てくるんですが、それだって書いている途中まで知りもしなかった。

── : 本作は、犯人が誰かというミステリであると同時に、主人公の女性が追い詰められていくサスペンスという側面もあり、最後にはどんでん返しも用意されている。さらにSNS犯罪という現代性をも備えた贅沢な作品です。盛りだくさんな小説になったのには、ラジオ局に勤務されている経歴の影響があるのでしょうか?

志駕:  それは大いにありますね。新しいテクノロジーが世に出た時に、それをいかに番組に落とし込めるか。しかも他の誰よりも早く。テクノロジーって出始めが一番おもしろいんです。ラジオはテレビに比べればパーソナルなメディアなので、そういうものを実験的に取り入れたりすることができる。だから新しいものをどんなふうに取り込んでやろうかと考える癖はあります。本作についていえば、心掛けたのは一冊読んでもらったら十冊くらいの知識を読者に得てほしいということ。そう思っていろんな情報をどんどん放り込みました。そうじゃないと読者が飽きるんじゃないかという恐怖心があるんです。  展開の早さについてもそうですね。ラジオ業界でよく言われるのは、人間の集中力は三分しか持たないということ。だから三分のなかに、必ずオチまで入れて、すぐに曲に行く。そうじゃないとリスナーは聴いてくれないんじゃないかと、怖いんですよ。これはラジオ人の宿命でしょうね。それが染みついています。

── : なるほど。目を(みは)るような、めまぐるしい展開には、そうしたバックグラウンドがあったのですね。  これまでにはどんな小説を好んで読まれてきたのでしょうか?

志駕:  司馬遼太郎は全部読んでいますね。あとは桐野夏生さんも好きです。  今回この作品を書くにあたってミステリをひと通り読みましたが、横山秀夫さんや真保裕一さんは本当に素晴らしいなと思います。あとはやはり、海外ミステリはすごく勉強になりました。  それから江戸川乱歩。小説の発想の原点って全部、乱歩作品のなかにあるんじゃないかっていうくらい。あの昏さに魅せられますね。

── : 今後はどんな作品を書かれる予定でしょうか?

志駕:  この作品はすごく現代的なテーマでしたけど、今度はまったく違ったものを書こうと思っています。あまり詳しくは言えないのですが、「こんなに振り幅があるんだ」と驚いてもらえるようなものに挑戦しようと思っています。


志駕 晃

1963年生まれ。明治大学商学部卒業。現在はニッポン放送勤務。第15回『このミステリーがすごい!』大賞・隠し玉として、本作にてデビュー。

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