万葉集に、親しもう。
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テレビ・ラジオで大人気、万葉学者で奈良大学教授の上野誠先生著『はじめて楽しむ万葉集』(角川ソフィア文庫)を一部公開します!
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第一章 我こそは告らめ家をも名をも
一 春を告げる
泊瀬の朝倉の宮に天の下治めたまひし天皇の代 [大泊瀬稚武天皇]
天皇の御製歌
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(雄略天皇 巻一の一)
『万葉集』は、稚武天皇、つまり雄略天皇自らが作った歌からはじまる。『万葉集』は、全4516首、20巻からなる書物。その一番はじめの歌が、雄略天皇の御製歌なのである。雄略天皇の即位は、時に456年のことだが、『万葉集』ができた8世紀の人びとは、「この天皇の時代に、日本の国土は統一された」と考えていたのであった。雄略天皇は国土を統一した英雄だったのである。そして、多くの女性を愛し、多くの女性から愛された天皇と、大和朝廷では伝えられていた。すなわち8世紀の人びとは、雄略天皇のことを力強く魅力的な天皇だと考えていたのであった。
この天皇の歌を、『万葉集』の一番はじめに据えたのには重要な意味がある。ある意味では、「『万葉集』とは立派な書物なんだぞ」と権威づけるためなのである。
雄略天皇は、泊瀬の朝倉、すなわち現在の奈良県桜井市に宮を定めた。近鉄の大和朝倉駅で下りて散策すると、この歌の世界が広がっている。この場所のどこに宮殿があったのか、想像しながら、歩いてみたいものだ。
「籠」は「カゴ」、「ふくし」は「若菜を摘むへら」のことである。天皇はある春の日、若菜摘みをする「をとめ」たちに、声をかけるのであった。
さて、古代においては、女性が自らの名前を明かすことは、結婚を承諾する行為とみなされていた。したがって、女性は、結婚をしようと思う男性以外には決して名前を教えないのである。それは、うっかり名前を洩らしてしまったら、「あなたと結婚します」ということになってしまうからである。だから、「をとめ」たちはけっして答えない。そこで、天皇は力強く、自分が大和を治めている王者であると宣言する。
おそらくこのプロポーズは、大和に春を告げる年中行事であったと考えられる。そして、そこでは天皇が「わたしこそ大和の王だ」と宣言することにこそ、重要な意味があったのであろう。したがって、求婚は春を迎える儀式として行われている、と考えるのがよい。
つまり、天皇の求婚はお米がたくさん採れますように、作物がたくさん採れますようにと祈る、一種の農耕儀礼だったのである。春、これから畑を耕し、そして稲を植えていくという時に、天皇がそこで働くであろう「をとめ」たちに結婚を申し込むという形で、お祭りが進んでいく。この歌は、そのような様々な想いが込められた歌なのである。
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20巻からなる『万葉集』をひもとくと、7、8世紀を生きた人びとの肉声が聞こえてきます。
「令和」の出典となった『万葉集』について、上野先生の楽しい解説によってより親しむことができる、こちらの本はいかがでしょうか。万葉びとの心を感じてみてください。
『はじめて楽しむ万葉集』(角川ソフィア文庫)
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万葉集は楽しんで読むのが一番! 定番歌からあまり知られていない歌まで、84 首をわかりやすく解説。万葉びとの恋心や親子の情愛など、瑞々しい情感を湛えた和歌の世界を旅し、万葉集の新しい魅力に触れる。
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万葉集の心を読む(角川ソフィア文庫)
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万葉集で親しむ大和ごころ(角川ソフィア文庫)
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恋に生きる素晴らしさと怖さを悟り、それを笑う余裕を持っていた万葉びと。彼らは「心」をどのように理解していたのだろうか。男女の愛における嫉妬と裏切り、ユーモア、別れの悲しみ、怒り……現代にも通じる、喜怒哀楽の感情を詠んだ歌からは、千年以上も前の万葉びとの、日本人らしい自然で素直な心の綾を感じることができる。遺された多くの万葉歌を通じて、生きる喜びにあふれた万葉びとの豊かな感情の動きを読み解く。『万葉にみる男の裏切り・女の嫉妬』を改題。
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※新元号「令和」決定記念試し読みは、第5弾まで予定しています。
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