北上次郎の勝手に!KADOKAWA 第32回・穂村弘『短歌ください 明日でイエスは2010才篇』
北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」

数々の面白本を世に紹介してきた文芸評論家の北上次郎さんが、KADOKAWAの作品を毎月「勝手に!」ご紹介くださいます。
ご自身が面白い本しか紹介しない北上さんが、どんな本を紹介するのか? 新しい読書のおともに、ぜひご活用ください。
穂村弘『短歌ください 明日でイエスは2010才篇』を読む
前回、穂村弘の『短歌ください』を読んだら、続きを読みたくなったので、その続刊を買ってきた。前作同様に、「ダ・ヴィンチ」誌上で連載している企画の第二弾である。ようするに、読者が投稿してくる短歌を穂村弘が選んで編んだものだ。
今回も私が個人的に気にいったものを並べてみる。
弟と仲直りした雨のあと二畳の部屋に虹を見ていた
名前と性別と年齢しか記載がないので、投稿者の職業はわからないが、短歌と関係のない生活を送っている人が(たぶん)、こういう歌をすんなりと作るところに、日本人の体にしみついた短歌の奥深さを感じる。
「まだそんな幼いことをやってるの」言いつつ涙溢れるばかり
穂村弘の評の中には同じ作者が送ってきた歌がときに紹介されたりするが、ここでは「公園の隅に立ってる人の影 口を開いて猫を飲み込む」「何回もキュキュッと直すポニーテールあなたが好きな高さどのへん?」が気になった。
きみと手をはじめてつなぎし日の夜に団鬼六の訃報を聞けり
はっと胸を打たれたのは、作者の年齢が「18歳」と書かれていたからだ。いや、18歳で団鬼六を読む読者がいてもかまわないが、そうか18歳で団鬼六を知ってるのかと思うのである。
かくれんぼしてる時にはさしすせそ言っちゃだめって怒ってた君
これは穂村弘の評を読むまで意味がわからなかった。さ行って、息が漏れるんですよね、と作者は書いてきたそうだ。なるほど、そういう意味か。
あのひとの携帯電話がひかっててなんでこんなに寂しいんだろう
現代の恋人たちの実感がここにある。それを鮮やかに切り取るリアルが素晴らしい。
もっともっと読みたい。そうか、単行本になるのを待たず、「ダ・ヴィンチ」を読めばいいのか。