北上次郎の勝手に!KADOKAWA 第30回・山邑圭『圏外捜査』を読む
北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」
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数々の面白本を世に紹介してきた文芸評論家の北上次郎さんが、KADOKAWAの作品を毎月「勝手に!」ご紹介くださいます。
ご自身が面白い本しか紹介しない北上さんが、どんな本を紹介するのか? 新しい読書のおともに、ぜひご活用ください。
山邑圭『圏外捜査』を読む
新刊書店の文庫コーナーを見ていたら、山邑圭『圏外捜査』という本が目にとまった。特命捜査対策室・椎名真帆、という長い副題が付いている。
私が気になったのは「Wヒロイン誕生!!」という惹句だ。なんだか、そそる惹句である。で、買ってきてすぐに読んでみた。
特命捜査とは、過去の未解決凶悪事件の継続捜査をすることで、椎名真帆が配属された第七係は、係長の重丸と、同僚の有沢、そして椎名真帆の3人だけ。全員、女性である。仮眠室や備品倉庫が並ぶフロアの一室に案内されて係長の重丸に「荻窪東署から出向しました椎名です」と挨拶すると、「有沢くん、後は頼むわ」とデスクに、突っぷす。「係長、徹夜したらしいです」と言う有沢に、「徹夜するほどハードな事案が……?」と尋ねると「上の娘さんが、来春お受験なんです。勉強に付き合わされたらしいです」。おいおい、どんな部署なんだ——という快調な幕開けから始まっていく。ちなみに「Wヒロイン」のもう一人は有沢のことで、まだ多くは語られていないものの、興味深いヒロインだ(人と話したくないのでキャリアになれば話しかけられずに済むだろうという警察官を志望した動機は想像を絶している)。いずれ彼女が主役となる巻が出てくるのかも。
ストーカー殺人の資料のなかに謎めいた線画を真帆が発見してからの再捜査の日々が描かれていくことになるが、「刑事部捜査一課 特命捜査対策室 第七係」に出向する前の、荻窪東署時代を描いたのが「刑事に向かない女」3作で、おお、それではこっちも読まなければと、とりあえず最初の『刑事に向かない女』を読んでみた。2巻目には「違反捜査」、3巻目には「黙認捜査」という副題が付けられている。で、副題なしの第1巻だが、こちらも快調だ。『圏外捜査』で真帆は三十歳になっていて、もう恋などいらないと仕事一筋だったが、『刑事に向かない女』の段階では、警察学校時代の同期、芦川と再会すると、たちまち微熱状態。全然、恋に無縁ではないのだ。『圏外捜査』までの間にいったい何があったのか、すごく気になる。