北上次郎の勝手に!KADOKAWA 第29回・時田昌瑞『辞書から消えたことわざ』
北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」

数々の面白本を世に紹介してきた文芸評論家の北上次郎さんが、KADOKAWAの作品を毎月「勝手に!」ご紹介くださいます。
ご自身が面白い本しか紹介しない北上さんが、どんな本を紹介するのか? 新しい読書のおともに、ぜひご活用ください。
こんなことわざがあったのか!
言葉は時代とともに変わっていくものであるから、消えたことわざがあっても不思議ではない。本書には、そういう「え、なにそれ?」ということわざが多く収録されている。だから面白く、つい読みふけってしまう。たとえば、
①「ムカデが
②「
③「聞いて千両見て一両」
ということわざは現在ほとんど使われていない。辞書から消えるにはそれなりの理由がある。
①は、たくさんの足を持つムカデが草鞋を履くのは手間がかかるということから転じて面倒くさいこと。②は、薬用の高価な朝鮮人参を食べて治ったけど支払いで苦しんだということから転じて、良かれと思ったことが不本意な結果に終わること。③は、人から聞いた話ではよかったのに、実際に自分の目で見ると全然違っていたという意味。
これらのことわざは、なんとなくその意味がわかるけれど、いまとなっては全然わからないのが④「
朝比奈というのは鎌倉前期の武将で、弁慶と並んで日本を代表する勇士。首引きとは、お互いの首に綱をまわし、首の力で綱引きをして力比べする遊び。つまり、勝ち目のないことをいう——と本書で説明されているが、朝比奈も首引きも知らない現代人には、意味不明のことわざで、辞書から消えるのも止むを得ない。
⑤「
これは、ツルツルしたところてんを、プリプリしたこんにゃくに乗せようとしても、ところてんはグニュグニュなのでまともに立てない。ここから転じて、「グニュグニュな状態」のたとえ。
こんな面倒くさい言い方をしなくても「グニュグニュ」と言ったほうが早いから、これは消えるほうが自然だろう。
最後は「うどん