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特集

【インタビュー】本を読まない人こそ、読書の沼に引き込みたい! ページ薬局さん開局5周年企画「小説家15人の処方せん」開催中!

大阪府内に店舗を構えるページ薬局は、2020年6月1日に開局した調剤薬局。ですが、普通の薬局とは大きく違うところがあります。それは、待合室に1000冊ほどのバラエティに富んだ書籍が並べられており、本を販売する本屋さんでもある、ということ。現在では、薬局を訪れた患者さんが待ち時間に手に取ってくれるのはもちろん、いちばん身近な書店として利用される常連客の方も増えているそうです。
そんなページ薬局さんも今年で開局5周年! 毎年バラエティに富んだ周年企画を開催していらっしゃいますが、2025年は15人の作家さんが書いた「本の処方せん」のブックカバー企画が開催中! 今回はページ薬局さんを立ち上げた瀬迫貴士さんと、店長の尼子慎太さんのお二人に、立ち上げの経緯や今回の周年企画にかける想いを伺いました。



――開局5周年おめでとうございます。様々なインタビューで答えられていると思いますが、改めて薬局×本屋という斬新な業態を立ち上げた経緯を教えてください。

瀬迫:実はページ薬局は、そもそも薬局に本を置くということではなく、どちらかというと本の販売をもっと盛り上げて町の本屋さんを守りたい、という想いが起点になっています。私は社会人になってから10年以上、週に1回はどこかの本屋さんに行くようにしているんですが、年々身近な本屋さんが減っていることを寂しく感じていました。そんな中、自分のこの習慣が続いているのは本屋さんと本が大好きだからだということに気づいて、2019年頃から本屋に関わる仕事をしたいと考え始めたんです。その時期にたまたま、薬局を開局しないかというお話をいただいて、「じゃあ、いっそ薬局で本を取り扱おう」と決め、大学の後輩だった尼子を誘いました。

――尼子さんは薬局×本屋という取り合わせについて、声をかけられたときはどのように感じられましたか?

尼子:僕はもともと宮部みゆき先生の作品が好きだったのですが、恥ずかしながら大学に入学後は読書習慣から遠ざかっていました。瀬迫から誘われたときは本のトレンドもわからない状態でしたが、いろいろと読んでいくうちに改めて読書にはまったんです。ページ薬局は薬局×本屋という形態のため、普通の本屋さんよりもお客様に接する機会が多いことが魅力だと感じています。お薬をお渡しする際に「おすすめの本を教えて」と聞かれることも少なくありません。僕が好きなものを相手の方が好きとは限らないので、いろいろと聞き取りをしてから選書するようにしています。本に厳しいお客様から「すすめられた本が面白かった」とご感想をいただいたときは、本当に嬉しかったです。そういった経験がなければ、昨年の本屋大賞の「超発掘本!」に選んでいただいた井上夢人先生の『プラスティック』のコメントも書けなかったかもしれません。

――「ページ薬局」というお名前は、薬局×本屋というコンセプトを端的に表していますが、ネーミングはすんなり決まったのでしょうか。

瀬迫:実はいろいろと変遷がありました。薬局は保健所の許可を取得して開局するものなので、保健所に申請をしなければいけません。「薬局」を名乗りながらも本屋であることを認知させるためには、どのようなネーミングが良いか保健所の方とたびたび打ち合わせをしました。たとえば「本屋薬局」みたいなネーミングはだめですよ、とか。

尼子:本屋か薬局かわからないから、みたいな理由でしたよね。

瀬迫:何十個かあげた候補の中から「ページ薬局」というネーミングが想いも込めやすく、認知も得やすいのではないかということで決めました。

――薬局×本屋という今までにない取り合わせだからこそのご苦労ですね。さて、ページ薬局さんでは周年のタイミングで様々な企画を行っていらっしゃいましたが、5周年企画「小説家15人の処方せん」が6月2日からスタートしました。(8月30日まで)こちらは、作家さんに選書をしていただき、タイトルを伏せた状態で処方せんを書いたブックカバーだけを見てお客様に本を選んでいただく、という企画です。どのような想いから企画されたのでしょうか。

瀬迫:開局して以来、出版業界の方から「本の処方せんをやってみなよ」というお声をいただくことが多かったので、いつかはやりたいと考えていた企画です。ただ、私たちは周年企画をするにあたって、出版業界を盛り上げたい、お客様が本屋さんに足を運ぶ機会を増やしたいという二つの想いを大事にしており、本の処方せんの企画をやるにはまだまだ自分たちの話題性が足りない、と感じていました。

尼子:実際、一度かたちになりそうな時期もあったのですが、元々僕たちが処方せんを書くという企画で考えていたため、パンチがなくて保留にしていました。

瀬迫:
そんな中で昨年、尼子の推薦した井上先生の『プラスティック』が本屋大賞の「超発掘本!」に選ばれ、やるなら今だと感じたんです。企画を練っていく段階でドクターが処方箋をきるように、作家の先生に処方箋を作っていただいたら、もっと「処方せん」という企画の面白さが活きるのでは、と考えました。

――今回の企画には合計15人の作家さんが参加されています(敬称略:青山美智子、浅倉秋成、一穂ミチ、井上夢人、岩井圭也、下村敦史、新川帆立、蝉谷めぐ実、知念実希人、早見和真、増山実、町田そのこ、丸山正樹、宮島未奈、山口未桜)。錚々たる顔ぶれですね。

尼子:版元さんから先生方に繋いでいただいたんですが、まさか15人もの作家さんが参加してくださるとは思っていませんでした。本当に感謝の気持ちしかありません。その一方で、先生方からご快諾のお返事をいただくたびに「もう後戻りはできないぞ」と気持ちが引き締まりました。

瀬迫:今回お声がけしたのは、ページ薬局にこれまでかかわってくださった作家さんばかりなのですが、すべての始まりは2周年企画の際に『店長がバカすぎて』の早見和真先生との繋がりができたことでした。当時は恥ずかしながら作家さんへのご連絡の経路もわからず、早見先生のDMに突撃してしまったんですが、それから版元さんとのやりとりの仕方などもご教示いただき、それらの経験が今回の企画の実現に繋がったと感じています。

――先生方の選書の中で意外だな、と思われるものはありましたか?

尼子:全体的に「この先生がこんな本を!」という意外性はありましたが、その中でも浅倉秋成先生の選書はいちばん意外に感じられました。何故そう思ったのかはタイトルを言わなければいけなくなるので詳細は内緒ですが、浅倉先生にこういう一面があるんだ、と興味深かったです。

瀬迫:恥ずかしながら先生方が選書された本は、ほぼ私たちも読んだことがなかったので、いろいろな意味で新鮮でしたね。先生方の処方せんを見たときに、「この本を読んでみたいな」という気持ちがこみあげて、誰よりも私たちが楽しんでいました。今回ご協力いただいた先生方の中には、実際に医師をされている方々(知念先生、山口先生)もいらっしゃって、そのお二人が処方してくださっている、というのも企画の面白さかもしれませんね。

尼子:それぞれの先生方のルーツを感じられるような選書になっているので、選書された作品だけではなく、各先生方の作品も読んでいただくとより一層楽しめると思います。どうしてこの作家さんはこの本を選ばれたんだろう、と考えるプロセスも今回の企画の楽しみ方のひとつだと思います。本を読み終えた後に改めて処方せんの用法の部分を読むと、「ああ、そういうことだったんだ」という答え合わせができるはずですよ。

――ブックカバーのレイアウトも素敵ですよね。一目で処方せんとわかりつつ、かわいいデザインです。

尼子:当初は処方せんをそのまま使うようなかたちで作っていましたが、用法の欄が小さくて見づらかったんです。今回、ブックカバーは、オリジナルブックカバーで有名な正和堂書店さんにご協力をいただいて、バランスよく調整していただきました。一般の方が見て「処方せん」だとわかる情報量はどのくらいなのかなど、いろいろとすりあわせをして、いまのデザインになりました。



――処方せんには本のタイトルは書かれていないので、→各先生方がどんな選書をされたか気になる方は、是非ページ薬局さんか正和堂書店さんへ!それでは最後に、6年目を迎えたお二人の今後の展望などを教えてください。

尼子:僕たちは正式な書店員としての経験があるわけではなかったのですが、この5年間、出版業界全体であたたかく応援していただきました。その恩返しとして、少しでも業界を盛り上げていきたいです。ページ薬局には普段本を読まない方、本から離れてしまった方に、本に触れていただく環境があります。そういう環境があるからこそ、本を読まない方をいかに読書の沼に引き込むかをこれから考えていきたいですね。

瀬迫:私自身も、世の中で本を読むということへの需要がまだまだあると思っています。本とのタッチポイントである箱を作りたいという想いからページ薬局を立ち上げました。薬局と本以外にも可能性はまだまだあるのではないかなと思っているので、本の世界にいろいろな人を引き込むような手段を考えていきたいです。


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