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【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.40

【第200回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第200回】柚月裕子『誓いの証言』

 大橋は深く呼吸をして、冷静さを装いながら恵に言う。
「本当になんでもないんだ。悪かった」
 父親と来客三人のあいだに、緊張した空気が張り詰めているのを感じ取ったのだろう。恵は客間にいる四人を、訝し気な目で見つつも、何も言わず部屋から出て行った。
 恵の気配がなくなると、大橋は背中に汗を感じながら佐方に訊ねた。
「それで、その弁護士がどうしたんですか」
 自分からは、余計なことは話さないことにした。久保という弁護士のことはいまだに思い出せないが、あの当時に平尾の事務所にいた人間ならば、原じいの件に関係している人物かもしれない。思わず口にしたひと言から、あの出来事を語らなければならなくなるようなことは嫌だ。もう済んだことを、掘り起こされたくない。
 大橋の質問に、佐方は間を置かずに答える。
「久保さんはいま、ある女性から被害届を出されて、留置所へ入れられています」
 佐方の話によると、久保は既婚者でありながら妻以外の女性と関係を持った。しかもその行為は、男性が睡眠導入剤を使っての強引なものだったらしく、行為があった翌日に女性は警察へ被害届を出したのだという。
「それは、被害届を出されて当然でしょう。いったい、なんの問題があるんですか」
 自分の娘がその女性と同じ目に遭ったとしたら――そう考えると、大橋は相手の男に激しい怒りを覚えた。
 佐方の目が鋭くなる。
「大きな問題があるんです。今日、私たちが大橋さんに会いに来たのは、その問題を解決するためです」

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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