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連載

北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」 vol.27

北上次郎の勝手に!KADOKAWA 第27回・石弘之『感染症の世界史』

北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」

数々の面白本を世に紹介してきた文芸評論家の北上次郎さんが、KADOKAWAの作品を毎月「勝手に!」ご紹介くださいます。
ご自身が面白い本しか紹介しない北上さんが、どんな本を紹介するのか? 新しい読書のおともに、ぜひご活用ください。

五〇年周期の怖いやつ


石 弘之『図解 感染症の世界史』
定価: 1,320円(本体1,200円+税)


 エボラ出血熱は最強の感染症だという。死亡率はなんと90%。運良く治っても失明、失聴、脳障害などの重い後遺症が残ることが多いというから大変だ。
 エボラ出血熱ウイルスは、もとは熱帯林の奥深くでコウモリと共生していたと考えられている。それが熱帯林の大規模な破壊や、集落の急膨張で、すみかを失った野生動物が人の生活圏に出没するようになり、それにともなってウイルスが人に急接近という経緯のようだ。
 このエボラ出血熱を描いたノンフィクションに、リチャード・プレストン『ホット・ゾーン』(ハヤカワ文庫NF)という本がある。ちなみに、野性のチンパンジーを飼うことで崩壊する家族を描いた傑作小説『ジェニーのいた庭』の作者ダグラス・プレストンとこのリチャードは兄弟だ。『ホット・ゾーン』は、この感染症の怖さをリアルに描いていて圧巻である。
 石弘之『感染症の世界史』は、これまで猛威をふるったそういう感染症を振り返る書だが、エボラ出血熱を初め、こんなにたくさんの感染症があったのかと驚いてしまう。そういえば奈良時代に権勢を誇った藤原四兄弟の没年が七三七年と同じであることが不思議だったが、当時わが国で大流行した天然痘に倒れたことを知って納得したことがある。『感染症の世界史』の冒頭に、感染症の世界的な流行は、これまで三〇~四〇年くらいの周期で発生してきたが、一九六八年の「香港かぜ」以来、四〇年以上も大流行は起きていないとあるが、新型コロナウイルス感染症が爆発したのは二〇二〇年からなので、「香港かぜ」から五二年後に起きたことになる。その周期が少し延びたのかもしれない。それに、スペインかぜの世界的流行は一九一八年から一九一九年。「香港かぜ」の流行まで約五〇年だった。そこから新型コロナウイルス感染症まで五二年なら、五〇年周期になったということが言えるのかも。
 人間が微生物を退治する方法を考えれば、テキはその対抗策を考えだすし、もう競争なのである。この戦いに人間が勝つことが出来ることを祈るのである。


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