北上次郎の勝手に!KADOKAWA 第26回・堀川アサコは面白い
北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」
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数々の面白本を世に紹介してきた文芸評論家の北上次郎さんが、KADOKAWAの作品を毎月「勝手に!」ご紹介くださいます。
ご自身が面白い本しか紹介しない北上さんが、どんな本を紹介するのか? 新しい読書のおともに、ぜひご活用ください。
堀川アサコは面白い
わけあって、堀川アサコ『定年就活 働きものがゆく』(角川文庫)を読んだら、すっかりはまってしまった。
堀川アサコは2006年に『闇鏡』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞してデビューした作家である(のちに『ゆかし妖し』と改題して新潮文庫nex)。それから16年、調べてみたら作品がものすごく多いので(「幻想」シリーズで人気を博した、と見返しの著者紹介にある)、次に何を読んでいいものやらまったくわからない。いままで読まずにすみません。
そこで、地元の書店にいき、その店の棚にあった角川文庫を4冊買ってきた。堀川アサコ作品は各社から出ているが、とりあえず角川文庫からいこう。
きっかけとなった『定年就活 働きものがゆく』については別の機会にするので、ここでは『ある晴れた日に、墓じまい』(令和2年8月)と、『うさぎ通り丸亀不動産』(令和元年9月)を読んでみた。
まず、『ある晴れた日に、墓じまい』から。こちらの主人公は44歳の正美。テーマはふたつ。タイトルになっている「墓じまい」と「乳ガン」だ。このふたつをめぐって展開する家族小説である。『定年就活 働きものがゆく』にも感心したのだが(だから、はまったのである)、この『ある晴れた日に、墓じまい』もうまい。
主人公の正美は古書店を営んでいるが、「乳ガン」の治療中。自分が死んだら実家のお墓は誰が守るのか、突然気になって墓じまいを思い立つところから始まっていく。個性的なわき役たちが次々に登場して(ひとりずつ紹介したいところだが、そんなことをしていたらこの5倍くらいの分量が必要だ)、まったく飽きない。ちょっとユーモラスで、ちょっとしんみりし、2時間(短いので読破する時間はそのくらいだろう)をたっぷりと楽しむことが出来る。
『うさぎ通り丸亀不動産』も面白い。こちらの主人公は不動産屋に勤める美波。この若きヒロインを軸に、小さな騒動を連作ふうに描いていく。堀川アサコがプロだなあと思うのは、どんな素材を扱ってもそれなりにきっちり読ませることだ。これで600円(税別)とはタダみたいなものだ。
ところで、最初に読んだ『定年就活 働きものがゆく』のカバーイラストが茂苅恵であったからそう思うのかもしれないが、堀川アサコの文庫本には、茂苅恵のイラストが似合っている。私がこの人のイラストを好きなだけかもしれないけど。