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連載

北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」 vol.20

北上次郎の勝手に!KADOKAWA 第20回・久坂部羊『虚栄』

北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」

数々の面白本を世に紹介してきた文芸評論家の北上次郎さんが、KADOKAWAの作品を毎月「勝手に!」ご紹介くださいます。
ご自身が面白い本しか紹介しない北上さんが、どんな本を紹介するのか? 新しい読書のおともに、ぜひご活用ください。

がんをめぐる物語


久坂部 羊『虚栄』
定価: 1,836円(本体1,700円+税)


「久坂部羊強化月間」の3発目は、『虚栄』。2015年にKADOKAWAから上梓された第8長編である。
 今回は、がんをめぐる物語だが、なによりも強く印象に残るのは、岸上医師の「真がん、偽がん説」だ。『がん治療は患者を殺す』という著書を持つ岸上という医師を登場させて、がんの放置療法を紹介するのである。つまり、何もしないこと。というのは、手術で助かった早期がんはすべて偽がんで、手術しなくても死ぬことはなかったというのだ。逆に真がんは、がんが発見された段階ですでに広範囲に転移しているので、手術してもまた再発し、苦しみを味わうだけだから、手術しても意味はない。それが「真がん、偽がん説」だ。現実にこの考え方はあるようで、この放置療法を筆頭に、さまざまな治療法が物語の中で激突する。
 この構成が久坂部羊のうまさだ。がん撲滅のための国家プロジェクトが始まるのである。手術の外科、抗ガン剤投与の内科、さらに放射線科と免疫療法科の四グループの代表を集結させて、政府ががん撲滅に乗り出すという虚構を作ることで、がん治療の最前線のさまざまな問題を浮き彫りにするのだ。
 それぞれのグループは、自分たちの治療がいちばん優れていると信じていて、他のグループの治療を認めない。陰謀を張りめぐらせて邪魔さえするのだ。こんな争いが本当にあるのかどうか知らないが、ひどいよまったく。「医者って感じ悪いのがふつうじゃないですか。みんなから先生って奉られてるから」という台詞が出てくるが、こんな医者ばかりだと世の中が信じられなくなる。もちろん、ごく少数ではあるけれど、「いい人」もいたりする。研究を取り上げられ、僻地に飛ばされた北沢医師はその筆頭で、この北沢医師が報われるラストの展開が、久坂部羊の優しさだと思う。
 膨大な登場人物を操って、その虚々実々の戦いを描いていくのだが、どこにでもいそうな小悪党ばかりで、こういう造形が久坂部羊は天才的にうまい。


紹介した書籍

  • 虚栄

    虚栄

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