北上次郎の勝手に!KADOKAWA 第21回・額賀澪『カナコと加奈子のやり直し』
北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」
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数々の面白本を世に紹介してきた文芸評論家の北上次郎さんが、KADOKAWAの作品を毎月「勝手に!」ご紹介くださいます。
ご自身が面白い本しか紹介しない北上さんが、どんな本を紹介するのか? 新しい読書のおともに、ぜひご活用ください。
今月は突然、額賀澪だ!
新刊書店の文庫コーナーを見ていたら、角川文庫の新刊のところで、額賀澪『カナコと加奈子のやり直し』が目に留まった。額賀澪にこんな作品があったかなあ。巻末を見たら、2019年3月に刊行された単行本『イシイカナコが笑うなら』を加筆修正のうえ改題し文庫化したもの、と記されていた。おお、読んでないぜ。
額賀澪は、2015年に『屋上のウインドノーツ』で松本清張賞、『ヒトリコ』で小学館文庫小説賞を、ダブル受賞してデビューした作家で、そのデビュー作からずっと読んできたつもりでいたが、読み落としがあったとは知らなかった。2019年3月なら、まだコロナ禍の前だから、都心の書店をしょっちゅう覗いていたはずなのに、見落としがあったとは。そこですぐに買って帰宅。額賀澪なら面白いはずである。
ホントに面白かった。主人公は菅野京平。教師になって10年目の31歳。母校の星ノ谷高校に異動になり、赴任するところからこの物語が始まっていく。京平が2005年卒と知ると、「じゃあ、菅野せんせー、イシイカナコと同級生だったの?」と生徒が言うのだ。13年前に自殺したイシイカナコの幽霊が校舎を徘徊していて、一人で屋上に行くと突き落とされると、生徒たちは口々に言う。
「それ、見た子はいるのか?」と尋ねると、「バレー部の先輩が部活帰りに~」とか「お姉ちゃんが三年のときに~」とか「何年か前の修学旅行で~」と、嘘か本当か分からない目撃談が次々に飛び出してくる。星高生の間では有名な怪談話になっているらしい。
で、そのイシイカナコの幽霊が本当に現れて、京平を13年前に連れていくのである。意識が飛んで、若き日の自分に入り込む——という展開の小説はよくあるが、京平の意識が入り込んだのは依田晴彦という同級生。高校時代に特に仲がよかったわけではない。案内人のイシイカナコの幽霊が間違えちゃったようだ。高校生の自分は教室にいるし、自殺することになる石井加奈子もいる。おいおい、どうするんだ、と菅野京平の悪戦苦闘がここから始まっていく。やっぱり、額賀澪は面白い。
ところで、この機会に額賀澪作品リストを調べたら、私が未読の作品が他にもあったことが判明。これからゆっくり読むつもりである。