
生きていくためにもがくことは、けして格好悪くない── 君嶋彼方『夜がうたた寝してる間に』レビュー【本が好き!×カドブン】
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君嶋彼方『夜がうたた寝してる間に』レビュー【本が好き!×カドブン】
書評でつながる読書コミュニティサイト「本が好き!」(https://www.honzuki.jp/)に寄せられた、対象のKADOKAWA作品のレビューの中から、毎月のベストレビューを発表します!
今回のベストレビューは、安部ロシオさんの『夜がうたた寝してる間に』に決まりました。ありがとうございました。
どんな特別な能力があろうとも、誰もが精一杯、必死になって生きている。生きていくためにもがくことは、けして格好悪くない。
レビュアー:安部ロシオさん
本作は『君の顔では泣けない』で小説野性時代新人賞を受賞した君嶋彼方の第二作。前作が大変話題になっていたのは知っていたが(書店の店頭でだいぶプッシュされていたので)、未読であるためこれを機に読んでみようと思った。
最近、ミステリ界隈では特殊設定ミステリが一大潮流となっているが、本作は言うなれば特殊設定青春小説である。
主人公の冴木旭は、自分の思いどおりに時間を止めることができるという特殊能力を持っている。短期的に考えればそれだけで人生勝ち組確定のような能力だが、高校二年の旭は自らの特殊能力を持て余しているようにも見える。
この世界では旭のような特別な能力を持っている者が普通に存在し、認知されている。能力を持っている者は必ず金色のバッヂをつけなければならず、能力を持っていない者と「区別」されている。なんなら能力者だけが入ることのできる居住スペースも用意されており、その中では能力者たちは「区別」されることなく暮らしている。
青春時代は、自己と他者との距離感に向き合わされる季節だ。旭の時間を止められる能力は、例えばとても背が高いとか、写真のような絵が描けるとか、そういった類の特徴と本質的には変わりはない。それでも旭は(そして人は)他者との違いを感じ、受け止め、考える。「区別」は果たして「差別」なのか。
本作では特殊能力として描かれているが、それは国籍や人種、性別といったものに置き換えられることはないだろうか? そのことに思い悩む旭は案外すぐ隣にいるかもしれないし、もしかしたらあなたが旭なのかもしれない。
本作は特殊設定を施された至極ストレートな青春小説である。
▼安部ロシオさんのページ【本が好き!】
https://www.honzuki.jp/user/homepage/no14735/index.html
書誌情報
夜がうたた寝してる間に
著者 君嶋 彼方
定価: 1,650円(本体1,500円+税)
発売日:2022年08月26日
『君の顔では泣けない』著者待望の新刊! 小説野性時代新人賞受賞第一作。
高校二年の冴木旭には、時間を止めるという特殊能力がある。だが旭にとって一番大事なのは、普通の場所で、普通の人と同じように生きていくことだ。異質な存在に向けられる無遠慮な視線や偏見に耐え、必死で笑顔をつくっていた旭だったが、大量の机が教室の窓から投げ捨てられるという怪事件が起こり、能力者が犯人ではないかと疑われる。旭は真犯人を見つけて疑いを晴らそうとするも、悩みをわかり合えると思っていた能力者仲間の篠宮と我妻にも距離を置かれてしまう。焦りを覚えていたところに、また新たな事件が起きて……。
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