人を受け入れることのできない島国根性はどこにでもあるのかもしれない──『ひきなみ』書評【本が好き!×カドブン】
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第31回のベストレビューは、morimoriさんの『ひきなみ』に決まりました。morimoriさん、ありがとうございました。
『ひきなみ』著:千早茜 書評【本が好き!×カドブン】
レビュアー:morimoriさん
瀬戸内の島で両親から離れて暮らすことになった葉と、祖父とふたりで暮らしている真以。親しかったふたりだったが、真以は脱獄犯の男と島から消えた。
小学校最後の年を母の実家、瀬戸内の島で暮らすことになった葉。母が持たせてくれた携帯電話を男子に取り上げられ、それを取り返してくれたのが真以だったが、祖母を始め島の人たちは真以に対し「いなげな子」と偏見を持っていた。しかし、ふたりは次第に親しくなっていき一緒に過ごすことが多くなった。夏休み前には、母が迎えに来てくれると信じていた葉だったが、中学生になっても東京には帰れなかった。
ある日、脱獄犯が島に潜伏したという情報があった。偶然、脱獄犯を見つけたふたりは、おにぎりをあげたり、見つからない場所に案内したりした。「おにいさん」と呼んで気軽に話をする中、真以が突然行方不明になった。脱獄犯とともに島から消えたのだった。
おとなになって、葉は有名企業に就職していたが、上司からのハラスメントで体調も崩しがちになっていた。ある時任された仕事で偶然、真以の行方を掴んだ。再会を果たしたふたりは、あの後のことを語ることなく、昔のふたりの関係にもどることができるのだったが。
ハラスメントのみならず、人を受け入れることのできない島国根性はどこにでもあるのかもしれない。人を攻撃することで自らを護ろうとする哀しい性、ラストで上司に言いたいことをハッキリ言うことができた葉の描写は、とても爽快だった。おとなになって、再び島を訪れたふたりを自然は、おおらかに温かく迎え入れてくれたのではないか。久しぶりの千早茜氏の小説を、充分に楽しませていただいた。生きづらかったであろう環境の中で、少女たちが生きる様子、おとなになってからも精一杯生きている様子に感動した。
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