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角川文庫キャラ文通信

【キャラホラ通信10月号】『お孵り』刊行記念 滝川さりインタビュー

角川文庫キャラ文通信

第39回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈読者賞〉受賞作お孵りが、今月、角川ホラー文庫より刊行されました。作者の滝川さりさんは本作がデビュー作となります。作品への思い、受賞時のお気持ちなどをうかがいました!

――改めて第39回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈読者賞〉のご受賞おめでとうございます! 今回が横溝正史ミステリ大賞と日本ホラー小説大賞が一緒になって初めての賞となりますが、この賞に応募したきっかけや受賞時のお気持ちを教えてください。

滝川:ありがとうございます。応募したきっかけは妻に勧められたからでした。日本ホラー小説大賞のファンだったのでチェックはしていましたが、ホラー小説なんて一度も書いたことがないのにこれほど大きな賞に挑戦してよいものか……と迷いがありました。自分が好きなジャンルだからこそ、向いていないと思い知るのが怖かったんだと思います。それでも「色んなジャンルを書いて応募してみよう」と決めていたので、何とか書き切って応募しました。選考会当日は仕事を一時間早く退勤して、家で電話を待っていました。左手で妻の手を握り、右手に神社で買った御守りを握り締めていた私はこの世で最も脆い存在になった気分でした。最終選考選出の通知から選考会まで緊張しっぱなしだったので、受賞のご連絡をいただいたときは喜びよりも「やっと生殺しの時間が終わった」という安心の方が強かったかもしれません。その後でお祝いに焼き肉を食べにいって、めったに食べられない塩タンの焼ける様をじっと見ていると「受賞したんだ」と嬉しさがこみ上げてきたのを憶えています。



――最終候補選出から選考会までずっと緊張されていたとは、なかなか大変でしたね(笑)。
それでは、これまでは色々なジャンルに応募されていたんですね。たとえばどういったジャンルのものを書かれていたんですか? また、ホラージャンルがお好きで読まれていたとのこと。よく読んでいた作家や好きな作品などあれば教えてください。

滝川:主に青春ものでした。真木武志先生の『ヴィーナスの命題』や筒井康隆先生の『時をかける少女』に感銘を受けて、自分も爽やかな青春物語が書きたいと思っていたんです。それにSFやミステリをミックスして、という感じでした。色んなジャンルを書こうと思ってからは純文学にも手を出しましたが、「女子中学生が場末のスナックで世界の滅亡を願う」という主語述語ゲームの失敗作みたいな作品ができて、もちろん一次選考で落ちました。賞レースが学校のテストみたいに思えてきて、殻を破ろうと必死だったんだと思います。
ホラーでよく読んだのは、筒井先生の恐怖小説です。「走る取的」や「乗越駅の刑罰」など、読んだことを後悔するほど怖いのにまた読んでしまう……というホラーの醍醐味を知った原体験だと思います。他にも中山市朗・木原浩勝両先生の「新耳袋 現代百物語」シリーズは夏の楽しみにしていまして、お気に入りの怪談はおどろおどろしく朗読して家族に聴いてもらっていました。日本ホラー小説大賞の作品も好きで、中でも岩井志麻子先生の『ぼっけえ、きょうてえ』は繰り返し読みました。『お孵り』で方言を多用したのも、この作品へのリスペクトがあったからです。

――日本ホラー小説大賞の作品に影響を受けている部分もあるんですね。それでは、受賞作『お孵り』が生まれたきっかけや、なぜこの作品を書こうと思ったのかを教えてください。

滝川:都市伝説が好きで、その中でも生まれ変わりには不思議な魅力を感じていました。この題材をホラーに仕立てるにはどうすればいいかと考えていると、アイデア帳に「卵から孵る老人」という殴り書きを見つけて、このイメージと生まれ変わりをかけ合わせれば不気味な作品ができるんじゃないかと思ったのがきっかけです。それから、今の自分にしか書けないもので、かつホラーの王道をいきたいと考えた結果、当時新婚だった私は「結婚相手の故郷が山深い村」という舞台設定に至りました。

――なるほど! 様々なアイデアが上手くかけ合わさって、この作品が出来上がっていったんですね。滝川さんにとって『お孵り』の読みどころはどこだと思いますか?

滝川:「生まれ変わりの村」は、主人公の生活圏とは遠いところにあるのに彼を苦しめます。一度でも足を踏み入れれば、たとえ距離を隔てていてもそこのシステムに囚われる恐怖……がこの作品の読みどころだと思います。また、次々と展開がありますので、ホラーアトラクションに乗ったような気分で、読者様にもぜひ主人公と一緒に「生まれ変わりの村」に追い詰められてほしいです。

――ホラーアトラクション! かなりハラハラドキドキな展開が待っていそうです。ホラーファンにとってはたまらないですね。今後は、どんなものを書いていきたいと思っていますか?

滝川:ミステリ&ホラーというジャンルに多少なりともご縁があったようなので、まずはこのご縁を大事にしていきたいです。人間とオカルト的存在が怖さを競い合って互いを引き立てるような作品ができれば面白いだろうなと思っています。

――ぜひ、これから面白いミステリ&ホラー作品をたくさん生み出してください! 最後に、読者に向けて一言メッセージをお願いします。

滝川:応募原稿から大幅に改稿しまして、よりエンターテインメント性の高い作品になりました。楽しんでいただければ嬉しいです。

ご購入&試し読みはこちら▶滝川 さり『お孵り』| KADOKAWA


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