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連載

横溝正史ミステリ&ホラー大賞創設によせて vol.1

【連載】横溝正史ミステリ&ホラー大賞創設によせて 第1回 澤村伊智

横溝正史ミステリ&ホラー大賞創設によせて

長い歴史を持つ「横溝正史ミステリ大賞」と「日本ホラー小説大賞」が統合し、ミステリとホラーを対象とした「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」として募集を開始しました(締切は9月30日)。これを記念し、歴代受賞作家の皆さんからメッセージをいただきました。
第1回は、映画化が決定した『ぼぎわんが、来る』で、日本ホラー小説大賞〈大賞〉を受賞した澤村伊智さんです。

 2012年の春から、友人数名に見せるためだけに小説を書くようになりました。2年ほど短編や中編を書いたところで、思い切って長編を書いてみました。友人に見せた後、以前勤めていた会社の先輩に送りつけたところ「面白かった」と感想をもらいました。欲が出て公募を探し、第22回日本ホラー小説大賞に応募したら大賞をいただきました。
 これが私のデビュー作『ぼぎわんが、来る』が世に出た経緯です。偶然、幸運、もののはずみ……何でも構いませんが、主体的でも積極的でもなかったことだけは確かです。だから受賞の連絡が来た時は「何かの間違いだ」と思いましたし、授賞式で錚々(そうそう)たる大作家の方々とお話しした時は夢を見ているような気持ちでした。
 デビューと前後して本業の仕事が減り、2018年現在は専業作家です。幸いにも食うに困ってはいませんが、「もし小説を書いていなかったら」「もし応募していなかったら」と考えると冷や汗が出ます。その点において、自分はホラー小説大賞に救われたと言えるでしょう。受賞が人生の大きな転換点だったのは間違いありません。
 なので正直なところ、今回の統合には一抹の寂しさを覚えてしまいます。母校の校舎が解体された、そう聞いた時の感覚に近い。その一方で、新設される「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」がどんな作品を世に送り出すのか、いち読者として単純に楽しみでもあります。
 応募を検討されている方へ。「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」にはまだ明確な傾向はありません。対策を立てるのも難しいでしょう。ですが逆を言えば、自分の書いた小説が選考委員の方々の心を揺り動かし、ひいては当該賞の方向性なり色なりを決定付ける(かもしれない)のです。こんな刺激的な機会は滅多にありません。奮ってご応募ください。

澤村 伊智(さわむら・いち)1979年大阪府生まれ。2015年、第22回日本ホラー小説大賞〈大賞〉を受賞し『ぼぎわんが、来る』でデビュー。同作は映画化も決定し、新たなホラーブームを巻き起こす旗手として期待されている。2017年『ずうのめ人形』で第30回山本周五郎賞候補。その他の著作に『ししりばの家』『恐怖小説 キリカ』がある。


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