角川文庫キャラ文通信
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「准教授・高槻彰良の推察」シリーズで話題の作家・澤村御影さん。コミックジーンで連載中のコミカライズも大好評です! 新展開を迎えるシリーズ5巻目の発売を記念し、作品に込めた思いや裏話をうかがいました。
――「准教授・高槻彰良の推察」シリーズもついに5巻目ですね。今回は高槻と尚哉がついに「この世ならざるもの」と出会ってしまうわけですが、執筆の思い出などがあればお聞かせください。
澤村:これまで高槻シリーズは、基本的には「怪異かもしれない事件を解いてみたら人為だった(でも断片的には本物の怪異もあったかもしれない)」というパターンのお話を積み重ねてきました。
でも、4巻にきたときに「そろそろ尚哉と高槻が過去に体験した出来事について触れていかなければいけないですね」という話を担当さんとして、人魚のお話で本物の怪異を出すことを決めて……でも、このときは正直、読者様の反応が怖かったです。今までと同じ流れを期待する方にとっては、こういうオチのつけ方は嫌なんじゃないかなと。
だけど、4巻を読んでくださった方の感想を見たら、思いのほか好意的なものが多かったので、割と安心して今回異界の扉をがばっと開いてみました(笑)。とはいえ、書くのは結構苦労しましたね……5巻第2章で尚哉達が体験することは、1巻を書いていた頃から漠然と「こうしよう」と決めていたものではあるんですが、いざ書くとなると、やっぱり大変で。コロナ禍真っ盛りの中で鬱々としながら書いていたせいもあるとは思うんですが、「これでいいのかな」と長いこと悩んで、1巻から4巻までを何度も読み返したりしていました。
高槻シリーズは尚哉の成長モノとして書いている部分も大きいので、これまでの出来事で尚哉が得たものがここで一つ実を結んだ形になっていたら嬉しいなと思っています。
――コロナ禍で悩みながらの執筆、本当にお疲れさまでした……! いつも澤村さんは執筆の際に取材をしていらっしゃいますが、今回はどうでしたか?
澤村:確かに、高槻シリーズは結構取材に行ってましたね。1巻で谷中、2巻で奥多摩、3巻ではモデルにした江東区にある某図書館を見に行きました。でも、4巻辺りから外出自粛の方向になってきて。江の島は前に何度か行ってるのでそんなに問題なかったんですが、5巻に出てくる長野は小さい頃に一度行ったきりで、ちょっと記憶もおぼろで……本当は行きたかったんですが、結局やめにして、あれこれと調べて書きました。山の気分を味わうために、近所の山を散策したりはしましたけどね(笑)。担当さんからは「村の様子がよくわからない」「描写が足りない」と何度も指摘を受けてしまって、やっぱり取材って大事なんだなあと思いました……。
――4巻で登場した謎の女性・沙絵や、尚哉と同じく嘘が歪んで聞こえる耳を持つ男性・遠山など、サブキャラクターもとっても魅力的ですよね。彼らはどのようにして生まれたのですか?
澤村:尚哉の過去に踏み込むための準備として出したのが遠山です。尚哉と同じ体験、同じ力を持つ遠山の存在は、高槻とはまた違った意味で、尚哉にとって大きなものになると思います。高槻を「大人のような子供のような人」という設定で作ったので、遠山はそれに比べると随分きちんとした大人感が漂う人になりました。5巻では、二人に対する尚哉の態度の差を楽しんでいただければと思います(笑)。
沙絵は、今後の展開のためにどうしても必要だったキャラクター。謎めいた女性ではあるんですが、お話のトーンを暗くしたくなかったので、なるべく明るい性格にしました。沙絵を書くのは結構楽しいですね。私の中では、高槻と同じくかなり自由度の高いキャラクターとして存在しているので、たまに私も思っていなかった方向に動いてくれたりします。
キャラクターを作るときはいつも、少しでも読者様に愛してもらえるといいなと思いながら作っています。……愛してもらえると、とてもとても嬉しいです。
――ちなみに、澤村さんの推しキャラは誰ですか?(笑)
澤村:推しキャラ! ……自分の作ったキャラで推しというのもおかしな話のような気もしますが、挙げるとしたらやっぱり高槻ですね。この人は、1巻2巻の頃はとにかく書きづらくて、脳内会議で言うこと聞いてくれなくてよく喧嘩したりしてました(笑)。でも、巻が進むにつれて、だんだん仲良くなってきて。高槻は物語の中心に立っている人なので、読者様にもこの人を愛してもらわないとどうしようもないという……ぜひぜひ、愛してやってくださいませ!
――コミックジーンでコミカライズが絶賛連載中、1巻ももうすぐ発売ですね。コミカライズを読んでの感想を教えてください。
澤村:まさか自分の書いたものが漫画になるとは思っていなかったので、最初にコミカライズの打診があったときにはびっくりしました!「高槻シリーズは、基本、イケメンが延々喋ってるだけですよ? 漫画には向いてないんじゃないですか?」と割と真顔で返したくらいで。でも、実際に漫画になったものを読んだら、なんと面白かったんですよ(笑)。
これはもう、全て相尾灯自先生のお力だと思います。原作をきちんと読み込んだうえでシーンを再構成したり、台詞を上手くまとめたりしてくださっているので、毎回ネームを見せていただく度にすごいなあと感動しています。あとやっぱり、文字でしかなかったものにビジュアルがつくというのは嬉しいですね! 「黒い全身タイツのおじさん」にビジュアルがつくとは思っていませんでしたし、大仏マグカップがあちこちのコマで妙な存在感を放っているのもすごく笑えて(笑)。未読の方はぜひ読んでいただきたいです!
――大仏マグカップを初めてイラストで見たときは感動しましたね……(笑)。コミックという形で自分の作品を眺めて、新たに発見したこと、気づいたことなどがあれば教えてください。
澤村:……あ、意外とこの話、面白かったんだなと……。いつも自分の書くものにそんなに自信があるわけではないので、「え、結構面白いんじゃないの、この話」と思えたのが大きな発見……いや、相尾先生の漫画が面白いだけなのかもしれないですが。
――巻を追うごとにシリーズの謎もどんどん深まってきましたね……! 今後の展開を明かせる範囲で教えてください。
澤村:今回、尚哉の過去の出来事については、一応一区切りついた形になるので、この先は高槻の方の話になっていくと思います。少しずつ本物の怪異も登場してきてはいますが、人為も怪異も両方書いていきたいシリーズなので、怪異一辺倒になることはありません。尚哉と高槻がこの先、現実と異界の境界線をどのように歩んでいくのかを見守っていただけると嬉しいです。
――ますます目が離せませんね! 楽しみです。最後に、読者の皆さんに一言メッセージをお願いします。
澤村:高槻シリーズはとにかくありとあらゆるめぐり合わせが良くて、順調に巻を重ねることができていますし、コミカライズもしていただいて、作者としてはもう全方位に対して「ありがとうございます!」と頭を下げて回るしかない気分でいます。そんな中でも、やっぱり読者様に恵まれたことが一番大きいと思っています。多くの方に手に取っていただいて、愛していただいて、応援していただいて、ついに5巻まできました。今回もどうか楽しんでいただけますように。愛していただけますように。びくびくどきどきしながら、発売までの期間を過ごしております。どうぞよろしくお願いいたします!
▼澤村御影『准教授・高槻彰良の推察5 生者は語り死者は踊る』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321912000252/