【カドブンレビュー】
怪談や都市伝説は、いくつか耳にしたことがある。信じる信じないは別として、背中がヒヤリとするものが多い。この作品にも、様々な怪異が登場する。少し違うのは、怪異が描かれているのに、思わず噴き出してしまうことが多いのだ。それはきっと凸凹コンビの影響だ――。
そのコンビというのは、地味なメガネ青年で人の嘘を聞き分けられる耳をもつ、主人公・深町尚哉(大学1年生)と残念なイケメンで民俗学専門の准教授・高槻彰良(34歳)だ。高槻には怪異の相談が寄せられ、それを民俗学の知識を用いてコンビで解決する。ただ1つ問題が……。高槻は、興味深い内容だと興奮しすぎて、相談者の前でも我を忘れてしまうのだ。その暴走を止めるのが常識担当の尚哉の役目だ。どちらが年上か分からない、このコンビの掛け合いはクセになってしまうだろう。
この作品は3話からなる物語。隣の空き部屋から壁を叩く音が聞こえる、藁人形がキッカケで自分の周りに針が落ちるようになる、神隠しにあった友人がいるといった、興味深いのだが、寒気がする怪異が描かれている。読書中、頭のなかで某ホラー映画の曲が流れ始めてしまうのは私だけではないはず……。
読み進めていくと、怖さより、怪異の正体を知りたいという気持ちが勝ってくる。それは「尚哉が嘘を聞き分け、高槻が怪異に鋭い解釈をつける」という謎解きぶりに、このコンビがいれば大丈夫と少し強気になってしまうのだ。そして冷静になると、怪異の裏に人の心の闇が見えドキリとする。
例えば、2話目の「針を吐く娘」では、針につきまとわれ怯える女子大生とその友人の胸の内が繊細に描かれている。真実に近づく度、怪異とは別の意味で怖く息苦しい。そして最後の2人のやり取りは、尚哉同様、眩暈がするようだった。怪異も怖いが、人の心も怖いものだと思い知らされる。
この作品は、読者に色々な感情を持たせ楽しませてくれるだろう。怪異で怖さを、コンビの掛け合いで笑いを、謎解きで爽快感を与えてくれる。そして尚哉の気持ちの変化にも注目してもらいたい。読み終える頃には、コンビの今後を知りたい! そんな気分に包まれるはずだ。
>>『准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき』
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