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連載

コロナの時代の読書〜私たちは何を読むべきか vol.13

「隣人」を恐れる世界――冲方丁【コロナの時代の読書】

コロナの時代の読書〜私たちは何を読むべきか

文字と想像力があれば、人はどこにでも行ける。
世界の見え方が変わる一冊、ここにあります。

冲方丁さんが選んだ二冊

『ザ・ロード』

コーマック・マッカーシー・著 黒原敏行・訳/ハヤカワepi文庫

『神話の力』

ジョーゼフ・キャンベル&ビル・モイヤーズ・著 飛田茂雄・訳/ハヤカワ文庫NF
https://bookwalker.jp/de5d795a78-8978-4aad-8028-9c4901c73dbc/



 すぐそばにいる大多数の「隣人」を恐れる。相手に悪意があろうとなかろうと、接触すること自体が脅威となる。そうした強い恐怖に支配された世界は、ウイルスの脅威同様、人類が幾度となく経験してきたものだ。イエス・キリストの「隣人を愛せ」という言葉は、そばにいる者たちへの恐怖心を捨てようという、当時の価値観の一大転換を示すものだった。

 もしひとたび「隣人」を恐れる世界になったら、我々はどうなってしまうのか? 小説に限らず様々な作品がこの問いに答えているが、中でも必読に値するのは、『ザ・ロード』(コーマック・マッカーシー著)であろう。多数の他者との平和かつ平等なつながりが失われれば、人はたやすく文化的な生活を失うということを、すさまじいまでの筆致で記している。主人公は幼い息子を守るため、あらゆる人間を敵とみなさざるを得ない。本当に敵かどうかではなく、自分たち以外の誰かがいることが、もうすでに恐ろしい。人がいた痕跡を見たり、人の気配を感じるだけで、必死に逃げねばならなくなる。そういう究極のディスタンスに支配された世界で、主人公と息子は、互いへの愛という最後に残された善意を守ろうとするが――。彼らの行く末は、実際にこの作品を読んで確かめてほしい。

 また、もう一つ紹介したいのが、『神話の力』(ジョーゼフ・キャンベル&ビル・モイヤーズ著)だ。こちらは神話学者とジャーナリストの対談で、『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカスや、ディズニーの製作者たちに多大な影響を与えたという神話学者ジョーゼフ・キャンベルの知恵の一大目録というべき書である。古代から現代に至るまで、生きることそのものが苦難に満ちたとき、人がどのようにして世界と和解してきたかが世界中の事例をもとに語られる。隣人を恐れる絶望と、その絶望を乗り越えるすべを知ることは、この先の世界を生きる上で、きわめて重要だ。

冲方丁(作家)


みなさんもぜひ「コロナの時代に読んで欲しい本」を投稿してください。
ご応募はこちらから→https://kakuyomu.jp/special/entry/readingguide_2020


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