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連載

コロナの時代の読書〜私たちは何を読むべきか vol.12

「わかりあえない者」たちにどう橋を渡すか――ドリアン助川【コロナの時代の読書】

コロナの時代の読書〜私たちは何を読むべきか

文字と想像力があれば、人はどこにでも行ける。
世界の見え方が変わる一冊、ここにあります。

ドリアン助川さんが選んだ一冊

『未来をつくる言葉 わかりあえなさをつなぐために』

ドミニク・チェン・著/新潮社
https://bookwalker.jp/ded11bfef6-356e-4ead-b31b-7d1331ca2a12/



 まだ見ぬ地平と大いなる共感。それら二つの要素が並立したとき、表現は初めて芸術になり得るのだと信じている。そのような意味では、この『未来をつくる言葉 わかりあえなさをつなぐために』は、本という表現形式を軽く飛び越え、今この時代の難しさと向かい合う芸術の頂きに達している。

 著者のドミニク・チェンはデジタルの専門家であるが、それ以前に表現の追求者である。たとえばドミニクはこう記している。

「書くことによって、世界はただ受容するものであるだけではなく、自ら作り出す対象でもあるとわかったのだ。そして、世界を作り出す動きの中でのみ、自分の同一性がかたちづくられるのだということも」

 ドミニクは、デジタル世界の未来から、親子や友人、あるいは敵対するものとの共棲の解法として「関係性の哲学」に注目し、新たな道を切り拓こうとする。彼がそこで柱として持ち出すのがグレゴリー・ベイトソンの思想だ。

 どこかで『悲しき熱帯』のレヴィ=ストロースを彷彿とさせるベイトソンは、しかし思想のやじりを文明批判に向けるのではなく、世界の事象の関係性の上に立つ生命観へと人生の熱情を傾けていく。ドミニクはこのベイトソンの手法である「メタローグ」(共話)から、解法が見えなくなり始めた「わかりあえない者」たちにどう橋を渡すかをフィードバック的に導き出そうとする。

 コロナウイルスの蔓延によって、より難解さが増してしまったこの世界の、その断絶と差別に向けて本書は確実に橋を渡そうとする。知と芸術を信じ、自ら平和を造りだそうとする者には必読の書だ。

ドリアン助川(作家、歌手)


みなさんもぜひ「コロナの時代に読んで欲しい本」を投稿してください。
ご応募はこちらから→https://kakuyomu.jp/special/entry/readingguide_2020


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