「わかりあえない者」たちにどう橋を渡すか――ドリアン助川【コロナの時代の読書】
コロナの時代の読書〜私たちは何を読むべきか
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文字と想像力があれば、人はどこにでも行ける。
世界の見え方が変わる一冊、ここにあります。
ドリアン助川さんが選んだ一冊
『未来をつくる言葉 わかりあえなさをつなぐために』
ドミニク・チェン・著/新潮社
https://bookwalker.jp/ded11bfef6-356e-4ead-b31b-7d1331ca2a12/
まだ見ぬ地平と大いなる共感。それら二つの要素が並立したとき、表現は初めて芸術になり得るのだと信じている。そのような意味では、この『未来をつくる言葉 わかりあえなさをつなぐために』は、本という表現形式を軽く飛び越え、今この時代の難しさと向かい合う芸術の頂きに達している。
著者のドミニク・チェンはデジタルの専門家であるが、それ以前に表現の追求者である。たとえばドミニクはこう記している。
「書くことによって、世界はただ受容するものであるだけではなく、自ら作り出す対象でもあるとわかったのだ。そして、世界を作り出す動きの中でのみ、自分の同一性がかたちづくられるのだということも」
ドミニクは、デジタル世界の未来から、親子や友人、あるいは敵対するものとの共棲の解法として「関係性の哲学」に注目し、新たな道を切り拓こうとする。彼がそこで柱として持ち出すのがグレゴリー・ベイトソンの思想だ。
どこかで『悲しき熱帯』のレヴィ=ストロースを彷彿とさせるベイトソンは、しかし思想の
コロナウイルスの蔓延によって、より難解さが増してしまったこの世界の、その断絶と差別に向けて本書は確実に橋を渡そうとする。知と芸術を信じ、自ら平和を造りだそうとする者には必読の書だ。
ドリアン助川(作家、歌手)
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