【カドブンレビュー10月号】
交換留学生として日本を訪れることになったオーストラリア、ローランド・ベイ・グラマー・スクールの小学生たちの奮闘ぶりを軽快なタッチでユーモラスに描き出すと同時に、「言葉を学ぶこと」を通してコミュニケーションの楽しさを教えてくれるのが本作『ジャパン・トリップ』だ。
母国の学校で日本語を学んでいる彼らは、交流のある日本の学校、綾青学院の生徒の家庭へホームステイする計画に参加する。日本にやってくるための準備の様子が描かれる導入部分では、純粋な好奇心と未知への希望や期待に胸をふくらませる子どもたちの無邪気な姿が描かれ、読者もワクワクさせられる。
そして来日した彼らは、それぞれのホストファミリーの家にホームステイしながら綾青学院に通い、様々な体験をすることになるのだが……。
「フトン」や「お風呂」や「タコヤキ」など日本の文化にカルチャーショックを受ける様子や、勇気を出して話しかけた日本語が通じたときの誇らしげな様子など、異国の地で仲間とともに初めての体験を重ねる子どもたちの、生き生きとした姿に思わず笑みがこぼれる。
祖母に育てられ、どこか子どもらしくない冷めた目線を持つ男の子、ショーンが、別れ際に「オトーチャン!」「オカーチャン!」と叫ぶシーンに思わず涙が溢れる「Myオカーチャン」の章。
一所懸命に勉強した日本語がしゃべりたくて仕方がないハイリーが、ホストファミリーの娘であるユイカのおせっかいを煩わしく思いながらも、最後には理解を示すシーンが印象的な「Myトモダチ」の章。
個性的な子どもたちが笑い、泣き、戸惑い、迷い、子どもならではの自意識に振り回されながら様々な体験を重ね成長していく姿を通して、コミュニケーションの難しさ、そしてその向こう側にある楽しさ、素晴らしさを描き出す。
異文化の言葉は、新しい世界の扉を開く鍵だ。扉の向こうの世界を自分の足で歩くために言葉は欠かせないツールとなる。
人類に与えられた最大のコミュニケーションのツールとも言える言葉。
だが、この物語を読んでいると、コミュニケーションにとって、それ以上に必要なものに気付かされる。
それは「一歩を踏み出すこと」だ。
言葉も通じない遠い異国の地でのホームステイを決心する初めの一歩。
「通じなかったらどうしよう」という迷いを振り切って、日本語で話しかける最初の一言。
険悪になってしまった親友と仲直りをするため、自分から歩み寄るその一歩。
それらを乗り越えてコミュニケーションを重ねていく子どもたちの姿は、笑顔が、涙が、そして身体や心、それら全てが言葉以上のツールとなって国や文化の壁を乗り越え、心を結ぶ手段となることを示している。
必要なのは「伝えたい」「繋がりたい」と思う心と、一歩を踏み出すことであると。
すでに大人の人たちには、自意識を持て余していた子ども時代を懐かしく思い出しながら、
そして子どもたちには、学ぶ楽しさや未来へのワクワクを感じながら、
奮闘する子どもたちの姿を通して、コミュニケーションの楽しさや可能性を感じてほしい。
そしてこの本から一歩を踏み出す勇気をもらってほしい。
そのチャンスはいつだって誰にだってあるのだから。