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連載

赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」 vol.36

【連載小説】窓の外から発砲してきた男の正体は? そのとき、村上はあることを思い出し―― 赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」#9-4

赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」

※本記事は連載小説です。

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 充代が駆け込んで来る。
「村上さん──」
「撃たれた! 傷は──」
 老人の左の肩から血が流れ出ていた。
「まあ! それじゃ……」
「早くタオルで傷を押えてくれ! 犯人は外にいる」
 久我はうめきながら、
「痛え……。どうなってるんだ……」
「先生! しっかりして!」
 充代を見て、
「誰だ、お前は?」
「〈E〉って居酒屋の女将さんに聞いて来たんですよ! 我慢して。今、手当を……」
 村上が脱衣所から風呂場を覗いた。もう人影はない。
 宗方だとしたら、久我を殺したかどうか確かめようとするかもしれない。
「どうしました?」
 ここの女将が入って来て、「まあ、久我さん!」
「警察へ電話してくれ!」
 と、村上は言った。「久我さんは病院へ運ばないと」
「救急車は時間がかかります。大きな病院は隣の町でないと」
「そこまで車で運ぶ。──浴衣を体にかけて。久我さん、あんたは殺されるところだったんだ!」
「ともかく……血を止めてくれ」
 と、久我は泣きそうな声を出した。
「そうだ。──有里君」
 ケータイはポケットに入れていた。
 有里はどうして宗方が来たと分ったのだろう?
 宗方が逃げようとしたら、有里の目にとまるかもしれない。
「ここを頼む!」
 と、ひと声かけて、村上は廊下へと飛び出した。

 有里は銃声を聞いていた。
「村上さん……」
 大丈夫だろうか? ケータイは切れてしまっている。
 かけ直したら、かえって村上の邪魔をすることになるかもしれない。
 迷いながら、有里は旅館の玄関を入ろうとした。
 足音がして、ハッと振り向くと、拳銃を手にした男が玄関の外に走り出て来た。
 そして、有里に気付いた。──有里は、その男と一瞬、向き合ったまま、立ちすくんだ。
「誰だ!」
 男が銃口を有里へ向けた。
 目の前に銃口が真直ぐこっちを向いている。
 有里は、怖いと思うより、これが現実と思えなかった。──やっぱりこれは宗方だろう。
 そして有里は、自分でも信じられないことに、
「やめなさい」
 と言っていた。「刑事さんと一緒よ」
「何だと?」
「宗方さんでしょう。逃げられないわよ」
 どんなに危いことをしているのか、頭では分っていたが、やめられなかった。
「──有里君!」
 村上の声が旅館の中から聞こえて来た。

▶#10-1へつづく
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「小説 野性時代」第207号 2021年2月号

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