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連載

赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」 vol.35

【連載小説】旅館の外で見張りをしていた有里は、怪しげな黒塗りの車を目撃して……。 赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」#9-3

赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」

※本記事は連載小説です。

>>前話を読む

 有里は、旅館の玄関をのぞきながら、村上たちの姿が見えないか、待っていた。
 すると、車のライトが表の通りに伸びて来た。有里が玄関の脇の植込みに入って見ていると、黒い車が、この旅館の前で停った。
 この時間に客?
 だが、見ていると、車はまた動き出した。
「今のって……」
 有里が気になったのは、その車が一旦この旅館の前に停って、また先へ行ってしまった、その動き方が、さっきの自分たちの車と似ていたからだ。
 旅館がここだと確かめてから、目につかないように先へ行く。そのタイミングも、そっくりな気がした。
 すると、もしかして今の車は……。
 有里は急いで駆け出すと、さっき村上が車を停めた空地へと向った。
 やっぱり!
 同じ空地に、その黒い車が停るところだった。
 車から、男が一人、降りて来た。ライトが消えて暗い中で、ほとんど様子は分らなかったが、男は大股に歩いて来た。
 有里はあわててすぐ近くの家のかげへと飛び込んだ。──空家なのか、真暗だ。
 足音がその前を素通りして行く。
 あの旅館へ行くのだ。ということは……。
 もしかすると、あれがむなかたかもしれない。まさか、刑事が先に来ているとは思っていないだろう。久我を「消しに」来たとしたら……。
 有里は、男が旅館の玄関から中を覗いて、それから外を回るように暗がりに姿を消すのを見ていた。
「村上さん……」
 宗方だとしたら、村上も危い!
 有里はケータイを取り出して、村上へかけた。

「ここです」
 と、女将が言った。
「分った」
 村上は〈男湯〉と書かれたのれんを分けて入って行った。
 脱衣所はガランとして、人の姿はない。くもりガラスの戸の向うにお湯のはねる音がしている。
 脱いでかごに入れた浴衣は一つだけだった。やはり久我が入っているのか?
 村上は、ガラス戸に手をかけようとした。そのとき、ケータイが鳴った。
 中へも聞こえているだろう。村上は、そのまま戸をガラッと開けた。
 立ちこめる湯気の中、誰かいるのは分ったが、姿ははっきり見えない。
「久我さん! いるんだろ!」
 と、村上が呼んだ。
 声が風呂場に響く。
「久我さんだね? 警察の者だ」
 と、村上は呼びかけた。「話がある。出て来てくれ」
 少し間があって、
「警察が何の用だ!」
 と、怒ったような声がした。「わしが何をしたって言うんだ!」
「あんたを捕まえに来たんじゃない。話を聞きたい。あんたのためなんだ」
「──分った。出るから、少し待ってくれ」
「ああ、急いでくれ」
 村上は、ともかく久我が無事だったことにホッとして、脱衣所で待つことにした。
 ケータイが鳴り続けている。有里からだ。
「──もしもし」
「村上さん! 無事?」
 と、有里が言った。「危いよ。宗方がそっちへ行った」
「何だって?」
「旅館の外を回ってった。今、どこ?」
 外を回って? 大浴場は広い窓があって、曇っているが、向うは外だったようだ。
 もしかして──。
 村上は戸を一杯に開けた。タオルを手にした裸の老人が面食らった様子で立っている。
「久我さんだね? さあ、出て」
 と、村上が促したときだった。
 窓のガラスが音をたてて割れた。外に人影が見える。
「危い!」
 村上は久我の腕をつかんで引張った。同時に、窓の割れた穴の向うで銃が発射された。
 久我がよろけて村上の方へもたれかかってくる。
「しまった! おい!」
 村上は久我の体を抱きかかえて、脱衣所へ転り込んだ。そして、
「来てくれ!」
 と、怒鳴った。

▶#9-4へつづく
◎第 9 回全文は「小説 野性時代」第207号 2021年2月号でお楽しみいただけます!


「小説 野性時代」第207号 2021年2月号

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