東京・南新宿に事務所を構える心霊探偵・濱地が助手のユリエとさまざまな怪奇現象の謎を解き明かす、有栖川有栖さんの「濱地健三郎シリーズ」。作家、脚本家、書評家など、物語世界に関わり活躍される方々は、どのように読み解くのか。最新作『濱地健三郎の呪える事件簿』の魅力について語っていただきました。
(本記事は「怪と幽vol.012」に掲載された内容を転載したものです。)
佳多山大地さんが語る! 心霊探偵・濱地健三郎の魅力
心霊探偵・濱地健三郎の事件簿も、これで三冊目。過去の二冊とちがうのは、濱地探偵や彼の助手である志摩ユリエもコロナ禍に遭遇し、僕ら読者と同じように不自由していることだ。そう、彼らと僕らは同じ世界の〈今現在〉を、ともに生きている。
第三集『濱地健三郎の呪える事件簿』の皮切りの作は、その名も「リモート怪異」。リモートならではの心霊騒ぎを描いた話とだけ紹介するとして──二〇二〇年のコロナ禍襲来を受けて急速に普及したのが、離れた場所にいる人とリアルタイムで会議や飲み会ができるコンピュータ・アプリだった。そもそもパソコン自体、なんだか仕組みはわからぬまま、あれこれ便利に使ってきたものだが、さらに便利さの幅が広がった印象だ。
怪談と文明の利器は意外と相性がいい、というのは怪談好きには常識だろう。固定電話にファクシミリ、ポケベルに携帯電話など、とりわけ通信機器においては意思疎通の速さ正確さの進歩とはうらはら、なにがどうなってそんなに便利であるのかは、筐体を外して中の機械をながめたところで頭が追いつかない。そんな、よくわからない〈すき間〉に、よくわからないモノはさぞ棲みやすいだろう。
この第三集で面白いのは、コロナ禍を乗りきるべく人々の生活がいやおうなく変われば、この世にあって目には見えない―幸い僕にはいっさい見えない──モノたちの生活も変わるところ。コロナ禍で亡くなった男の幽霊は、首と両手首のない恐ろしい姿で意外な身振りを示すし(第二話「戸口で招くもの」)、コロナ禍の襲来よりも前に亡くなっている人々が、いわゆる人流抑制の影響から、生きている人以上に人恋しさを覚えている様子に妙に切なくなる(第六話「どこから」)。
改めて思う。この世界は、わかったことばかりで全然できていない。わかったつもりでいることと、よくわからないまま済ましていることとで、ほとんどができているのだと。そんな現し世にあって、幽けきモノが見える濱地探偵への依頼が引きもきらないのは道理。……でも、なるべくなら一生、彼とは実際の関わりなく暮らしたいものです。
読み切り形式で複数の事件が収録されていて、ここから読んでも楽しめる!
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詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322104000334/
書籍紹介
濱地健三郎の呪える事件簿
著者 有栖川 有栖
発売日:2022年09月30日
江神二郎、火村英生に続く、異才の探偵。大人気心霊探偵シリーズ最新刊!
探偵・濱地健三郎には鋭い推理力だけでなく、幽霊を視る能力がある。彼の事務所には、奇妙な現象に悩む依頼人のみならず、警視庁捜査一課の刑事も秘かに足を運ぶほどだ。リモート飲み会で現れた、他の人には視えない「小さな手」の正体。廃屋で手招きする「頭と手首のない霊」に隠された真実。歴史家志望の美男子を襲った心霊は、古い邸宅のどこに巣食っていたのか。濱地と助手のコンビが、6つの驚くべき謎を解き明かしていく――。