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レビュー

プロファイリングと「刑事のカン」の正面対決! 2冊同時発売!!――実力派・阿泉来堂『バベルの古書 猟奇犯罪プロファイル Book1《変身》/Book2《怪物》』レビュー【評者:千街晶之】

第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞読者賞受賞作家の新境地!
阿泉来堂『バベルの古書 猟奇犯罪プロファイル Book1《変身》/Book2《怪物》』レビュー

今激推し&激注目したい、
ブレイク必至の要チェック作品を紹介する
ミステリ&ホラーの大型実力派作家の
“読みどころ満載”レビュー!

バベルの古書 猟奇犯罪プロファイル Book1《変身》
バベルの古書 猟奇犯罪プロファイル Book2《怪物》

著者:阿泉あずみらいどう


書評:千街晶之

ナキメサマ』で第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞読者賞を受賞し、「ホラー作家・那々木悠志郎」シリーズ、「贋物霊媒師」シリーズなど、ホラーとミステリを融合させた作品を次々と発表している実力派・阿泉来堂が、新たなシリーズを生み出した。新刊『バベルの古書 猟奇犯罪プロファイル Book1《変身メタモルフォーゼ》』と『バベルの古書 猟奇犯罪プロファイル Book2《怪物モンスター》』は、警察小説の枠組のもと、サイコスリラーと超自然ホラーの要素を兼ね備えた意欲作だ。
 主人公の加地谷悟朗は、北海道警荏原警察署の刑事である。『Book1《変身》』で彼は、五年前に相棒の刑事を「グレゴール・キラー」なる殺人鬼に殺害され、その復讐に燃える人物として登場する。口が悪く、すぐ手が出る典型的な昭和の刑事だが、正反対におちゃらけた性格の部下・浅羽賢介や、道警本部の優秀な刑事・天野伶佳とともに事件を解決した。
 この『Book1《変身》』では霊が視える青年が登場し、その能力が事件解決に寄与するのだが、『Book2《怪物》』はホラーよりサイコスリラーの要素が色濃くなっている。
 グレゴール・キラー事件の決着から約二カ月。加地谷と浅羽は通称「別班」なる部署に転属になっていた。日曜夜のTVドラマに出てくるような名前だが、仕事の内容は過去の膨大な捜査資料の電子化。グレゴール・キラー事件で手柄は立てたものの、その暴走ぶりから危険分子扱いされた加治谷を押し込めておくための左遷部署に他ならない。
 そんな加治谷と浅羽に出動命令が下った。現場は遊歩道、被害者は二十代の女性。頭部を何度も殴られたのが死因だが、遺体の様子は見るからに奇妙だった。両足は揃えられ、胸のあたりで両手を組んでいる……というあまりにも安らかな恰好は、まるで葬儀の際に死に化粧を施し、服装を整える「エンゼルケア」さながらだった。それを見て、加地谷は十五年前の同様の未解決事件を思い出す。
 さて、今回も道警本部から応援として天野伶佳が駆けつけたが、彼女と同伴する人物が問題だ。捜査一課捜査支援分析室の心理分析官・御陵伽耶乃、階級は警部補だが出で立ちは駅前に屯する若者さながら、一人称は「ボク」、人前で堂々と伶佳に愛情を示す一方で加地谷には初対面の時点で敵愾心を剥き出しにしている……というあまりにも強烈なキャラクターだが、プロファイラーとしての腕は確かだ。本書では、伽耶乃のプロファイリングと加地谷の「刑事のカン」が正面から対立するが、どうしてそういうことになるのか……にミステリとしての読みどころが存在する。本書の軸となるアイディアに、早い段階で見当がつく読者もいるかも知れないが、かなりひねった使い方がされているため、その裏の裏まで見抜くのは難しいのではないか。
 事件の捜査と並行して、親戚の家に預けられているらしい茜という少女と、その兄・佑真とのあいだで交わされる手紙が挟み込まれる。茜は、よく行く古本屋で仲良くなった「おじさん」のことを手紙に記し、佑真はその「おじさん」が危険人物ではないかと危惧するのだが……。本筋とどう関係するのかわからない、この謎めいた往復書簡にも、真相の手掛かりが秘められているのだ。
 ところで、この二部作を冒頭で「新たなシリーズ」と表現しておいたけれども、それは『Book1《変身》』にも『Book2《怪物》』にも回収されないままの伏線があり、それらがある種の邪悪な意志の介在を暗示しているからだ。それぞれ独立しているかに見える事件の黒幕に刑事たちが迫れるかどうか、今後の展開にも要注目なのである。

作品紹介



バベルの古書 猟奇犯罪プロファイル Book1《変身》
著者 :阿泉来堂
発売日:2023年10月24日

第40回横溝ミステリ&ホラー大賞読者賞受賞作家の新境地!
札幌市近郊の町、荏原市で発生した女子大生殺人事件。遺体の首と両手は切断されて持ち去られ、現場にはフランツ・カフカの『変身』の一節が残されていた。その猟奇的な手口は5年前に発生した『グレゴール・キラー事件』に酷似しており、ほどなくして更なる被害者も現れる。グレゴール・キラーに相棒を殺された過去を持つ刑事、加地谷と新米刑事の浅羽は、事件の捜査を進めるうち、被害者の霊を目撃したという青年に遭遇する。最初は半信半疑な刑事たちだったが、青年の証言により新たな犠牲者が出たことを知り、逃走した犯人を追う。連続殺人鬼グレゴール・キラーは何故、現場に『変身』の一節を残すのか。被害者の共通点は何なのか。それらの謎を解き明かし、猟奇殺人犯へと迫る加地谷と浅羽が目にする事件の真相とは……。そして、謎の古書が導く物語は、さらなる事件とともに下巻へと続く。猟奇事件×スーパーナチュラルミステリー第一弾!

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バベルの古書 猟奇犯罪プロファイル Book2《怪物》
著者 :阿泉来堂
発売日:2023年10月24日

『ナキメサマ』『贋物霊媒師』の著者の新境地。古書を巡る猟奇犯罪を追う!
先のグレゴール・キラー事件から二か月。その功績を認められ、刑事課強行犯係特別事案対策班(通称 『別班』)に配属された加地谷と浅羽が新たに捜査に当たるのは、帰宅途中に殺害された女性の遺体が、まるできれいに清められたかのように安置された『エンゼルケア殺人事件』。再び道警本部捜査支援分析室の天海伶佳らとともに捜査を進めるうちに浮かび上がってきたのは、十五年前に発生した少女殺人事件と、死亡した少女の遺族である一人の青年の存在。そして、数年おきに発生している女性の不審死事案だった。伶佳の同僚であり心理分析官の御陵伽耶乃は、プロファイリングによってその青年、青柳史也こそが殺人犯であると睨む。しかし加地谷は、青柳史也がプロファイリング通りの凶悪な連続殺人犯だとはどうしても思えなかった。次第に明らかになってくる兄妹の秘密。そして、メアリー・シェリー作の『フランケンシュタイン』に心を囚われる史也と、彼を慕う一人の少女。少女の身に危険が迫るとき、二人の刑事はその手に銃を握り……。上巻に続き、奇妙な古書に導かれた殺人犯を二人の刑事が追う。猟奇事件×スーパーナチュラルミステリーの後編!

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