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レビュー

愛すべき幽霊の存在が身のまわりの関係を見つめ直させる。――夏原エヰジ『冥婚弁護士 クロスオーバー』レビュー【評者:三宅香帆】

異色の〈ゴースト×リーガル〉小説!
夏原エヰジ『冥婚弁護士 クロスオーバー』レビュー

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冥婚弁護士 クロスオーバー

著者:夏原エヰジ



愛すべき幽霊の存在が身のまわりの関係を見つめ直させる。

書評:三宅香帆

この国のフィクションを眺めていると、案外「幽霊」というものは私たちにとって怖いというよりも愛すべきものだと思われているのではないか、と感じることがある。
たとえば児童文学においては『ユーレイと結婚したってナイショだよ』(名木田恵子、ポプラ社)をはじめとする「ふーことユーレイ」シリーズ、漫画においては『青野くんに触りたいから死にたい』(椎名うみ、講談社)など、それぞれのジャンルで人気を博している「幽霊と恋愛する作品」には枚挙に暇がない。あるいはこの国の幽霊を主題としたホラー映画、たとえば「リング」シリーズの「貞子」というキャラクターに対し、私たちは存外愛着めいた親しみを覚えていることは確かだろう。
本書はそんな「幽霊」文化の文脈を引き継いだ、「幽霊と結婚している」弁護士を主人公に据えた小説である。弁護士の祐一には、ある秘密がある。彼は17歳で亡くなった幽霊・琴子と「冥婚(生者と死者の結婚)」しているのだった。琴子は15年前に亡くなった巫女なのだが、死後も幽霊となり、祐一に取り憑いている。冥婚は本来、独身で死んでしまった彼女の魂を成仏させるための儀式のはずだった。だが実際は、成仏しそうな気配はない。琴子は、巫女としての力を使い祐一の助手となる、と言い始めたのだ。ふたりは、新米弁護士と幽霊巫女のコンビで、さまざまな事件を解決していくのだった。
幽霊、というギミックの面白さは、それがしばしば「他人」のメタファーになり得ることだ。メタファーというと大げさな表現かもしれないが、しかし恋愛や家族といった他人との関係性を築く物語のなかで、幽霊とその関係を結ぶことは、他人と関係を結ぶことの難しさや面白さを表現し易くする。幽霊は他の人から見えない。幽霊との関係は、自分との一対一の密室だ。しかしだからこそ、その密室のなかでどのような関係を結ぶか、が重要な問いになってゆく。祐一と琴子の関係はまさに、彼らのふたりきりの問題を読者が覗き見できるところにその魅力があるのだろう。しかしたとえ相手が人間であろうと、他人と夫婦や恋人になる行為もまた、同様のスリリングさをもって私たちに迫る。結局、その関係を外部から見ている人と、一対一の密室のなかで見ている人にとっては、見えているものが異なる(だからこそ「家庭という密室の中でのみ暴力をふるう」ような構造が生まれてしまうわけだが)。そう考えると、祐一と琴子の関係が、奇妙なものに見えつつも、どこか昔懐かしいラブコメにも見えてくるのは、ふたりの関係性が私たち読者にとって恋愛や夫婦の原風景にも見えるからだろう。
親子や夫婦といった、きわめて素朴な関係性を、本書は丁寧に描き出す。そしてそれは、琴子という幽霊の存在なしではありえない。幽霊という一見奇妙な登場人物が存在しているからこそ、私たちは改めて身のまわりにある密室の関係性を見つめ直すことができる。結婚や家族の意味が変わりつつある現代だからこそ読む価値のある、新しい形の夫婦の物語なのかもしれない。

作品紹介



冥婚弁護士 クロスオーバー
著者 夏原 エヰジ
発売日:2023年07月20日

幽霊なんだから手を出すな! 真相は俺が突き止める。
新米弁護士の祐一はイケメンだが卑屈で毒舌。話の通じない依頼人に日々忙殺されている。そんな彼には人に言えない秘密があった。若くして亡くなった幼馴染・琴子と「冥婚」(生者と死者の結婚)し、幽霊の彼女と暮らしているのだ。琴子は遺書の中で、当時の婚約者ではなく祐一を冥婚相手に指名したのだが、理由は隠されたままだった。
仕事にも口を出すまっすぐな琴子とぶつかりながら成長していく祐一だったが、冥婚にはある真実が隠されていて――。
「Cocoon」シリーズで注目の新鋭による、笑って泣ける〈ゴースト×リーガル〉小説!

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322302001015/
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