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『ミレニアム』を書き継いだ著者によるバディシリーズ。北欧ミステリ新境地――ダヴィド・ラーゲルクランツ『闇の牢獄』レビュー【評者:吉田伸子】

『ミレニアム』の第4部から第6部までを書き継いだ著者が挑む、新バディ・シリーズ
『闇の牢獄』レビュー

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闇の牢獄

著者:ダヴィド・ラーゲルクランツ 訳者:吉井智津



被害者の裏の顔、難民、外交機密――
読みどころたっぷりの警察小説!

上流階級ながら薬物依存の心理学者レッケ、移民街で育った警察官ミカエラ。正反対な二人が、サッカー審判員殺人事件に挑む。

書評:吉田伸子(書評家)

 北欧ミステリに詳しい読者なら、作者のダヴィド・ラーゲルクランツという名前に覚えがあるかもしれない。北欧ミステリの一大ムーブメントを巻き起こした、スティーグ・ラーソン『ミレニアム』だが、ラーソンの急逝を受け、『ミレニアム』の第4部から第6部までを書き継いだのがラーゲルクランツなのだ(ラーソンは当初『ミレニアム』全10部を構想していた)。
 本書は彼のオリジナル作品であり、スウェーデンを舞台にしたバディもののミステリである。バディの一方は、ハンス・レッケ。上流階級に属する元ピアニストの心理学者。もう一方はミカエラ・バルガス。チリからの移民で、ソルナ警察署に勤務する警察官。
 ストックホルムで起きた、サッカーの審判員殺人事件。レッケ教授にその事件の外部オブザーバー的な立場からの意見を聞くために、ミカエラは署の同僚とレッケ邸に出向く。そこで彼らが目の当たりにしたのは、絵に描いたような上流の暮らしだった。ミカエラたちは、口を割らない容疑者に対するアプローチなど、何か助けになるようなアドバイスを期待していたのだが、そんな彼らを煙に巻くようなレッケの言動。終いには物別れに終わってしまう。レッケの分析に興味を持ったのは、ミカエラだけだった。
 次に、ミカエラがレッケを見たのは、翌年の春、地下鉄のエステルマルム広場駅のホームでだった。今まさに、列車に向かって飛び込もうとしていたレッケに、思わず全力で駆け寄り、阻止するミカエラ。レッケは心身ともにぼろぼろの状態だった。
 ここから、レッケとミカエラがどんなふうにバディとなっていくのか、そして、サッカー審判員の殺人事件がどう決着するのか、は実際に読まれたい。誰からも評判の良かった被害者の〝裏の顔〟がじわじわと明かされていく過程はスリリングだし、アフガニスタン難民としてスウェーデンに辿り着くまでの彼のドラマ、そこに絡んでくる外交上の機密、と読みどころはたっぷり。
 だが、なんと言っても本書の肝は、レッケとミカエラ、二人の対照的な造形にある。かたや、外務大臣の片腕を務める兄を持つ、由緒正しきぼんぼん。かたや、裏街道を歩む兄を持ち、社会の階層としてはずっと下のほうで生きてきたミカエラ。ミカエラから見れば、銀のスプーンをくわえて生まれてきたようなレッケなのに、そのメンタルは脆弱そのもので、薬物に依存しなければクリアに思考すらできない、という体たらく。もうね、読んでいるこちらが、何やってんの? と突っ込みたくなるくらいのダメダメっぷりなのだ(もちろん、薬物に依存してしまう彼なりの理由もあるのだけど)。
 とはいえ、明晰な時のレッケの頭脳は折り紙付き。傍若無人な振る舞いも、そのずば抜けた頭脳ゆえのことでもある。対してミカエラは、インカ帝国を築いた人々の子孫である祖母に連なる血筋であるにもかかわらず、訳あって移民としてスウェーデンに暮らす。優秀な警察官ではあるものの、警察という男社会では女性はマイノリティだし、社会的にもマイノリティだ。家族の問題も抱えている。要するに、レッケは望まずとも持てる者であり、ミカエラは望んでも持つことが叶わない者なのだ。あらゆることに対照的なこの二人の造形が、物語に起伏をつけている。
 タイトルの「闇の牢獄」とは、囚人を真っ暗闇のなかに放置する拷問法のことだが、レッケの娘であるユーリアが、レッケが思念のなかに沈みこむことを「闇の牢獄」のなかに沈みこむ、と言っていることにもかけてある(そして、この時のレッケは、心ここにあらず、な状態になっている)。
 物語は、レッケのもとに、新たな依頼人が訪れるところで終わっているのだが、これがもう、すぐにでも読みたくなるような内容――十四年前に亡くなったはずの依頼人の妻が、ごく最近の写真に写っていた――で、シリーズ第二作の刊行が待ち遠しい!

作品紹介



闇の牢獄
著者 ダヴィド・ラーゲルクランツ 訳者 吉井智津
定価: 2,640円(本体2,400円+税)
発売日:2023年05月17日

『ミレニアム』を書き継いだ著者によるバディシリーズ。北欧ミステリ新境地
ストックホルムで起きた、サッカー審判員撲殺事件。地域警官のミカエラは捜査に参加、尋問のスペシャリストで心理学者のハンス・レッケと出会う。彼は鎮痛剤の依存症だった。独特の心理分析で捜査陣をかく乱するレッケだったが、ある日ミカエラが地下鉄に飛びこもうとした彼を救ったことをきっかけに、二人は被害者の裏の顔と、事件の奥に潜む外交機密に突き当たる。元ピアニストの経歴を持つレッケは、アフガニスタン移民である被害者の中に音楽の痕跡を見つけるが、そこには凄惨な過去が待ち構えていた。上流階級のレッケと移民のミカエラ。奇妙なコンビは時と国境を越え、真実に迫る――。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322202000797/
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