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『心霊探偵八雲11 魂の代償』
著者 神永 学
『心霊探偵八雲12 魂の深淵』文庫発売記念!
『心霊探偵八雲11 魂の代償』書評
評者・タカザワケンジ
『心霊探偵八雲』がついに完結! すでに単行本では完結編の12巻『心霊探偵八雲12 魂の深淵』が刊行されているが、文庫ではこの『心霊探偵八雲11 魂の代償』が最新刊。フィナーレに向けて走り出した物語は最高潮に向かっている。
内容について書く前にご存じない方のために『心霊探偵八雲』がどのようなシリーズなのかを解説しておこう。斉藤八雲は大学生。生まれながらに左眼が赤く、しかもその眼は死者の魂、つまり幽霊を見ることができた。赤い眼とその特殊能力は周囲の人間を遠ざけ、彼を人間嫌いにしてしまったが、同じ大学の小沢晴香と出会ったことがきっかけで少しずつ変化していく。晴香との出会い以降に解決した事件の数々が『心霊探偵八雲』シリーズなのだ(外伝にあたる『SECRET FILES 絆』は晴香との出会い以前の物語)。
『心霊探偵八雲』シリーズの魅力はまず数々の怪現象にまつわる事件を解決することにある。そして、事件を解決することで少しずつ八雲の周りに人とのつながりの輪ができていくことも大きな魅力である。しかもそれは同時に彼の人間的成長のプロセスでもある。
『11 魂の代償』は最終章にふさわしく冒頭から矢継ぎ早に事件が起きる。大学の倉庫に地下室を発見した大学生たちが見つけた金属製の箱。〈コノ箱 開ケルベカラズ〉とあるにもかかわらず箱を開けたとたんに彼らが見たものとは? 川辺に現れたずぶ濡れの少女がみるみる間に姿を変える。目撃した女子高生が味わった恐怖とは? 堤防の斜面に立ちため息をついていた男に女が声を掛けてくる。彼女が骨壺ほどの大きさの木箱に入れていたのは液体が満たされた瓶。その中に入っていたものとは? さらには、大学の部室で本を読んでいた八雲の前に痩せた小柄な女性が現れる。彼女の正体は?
謎また謎の連続だ。これらのエピソードがどうつながっていくのか読者には見当もつかないだろう。実際、この事件は『心霊探偵八雲』史上、まちがいなく最大のミステリである。合計4つの事件が同時に八雲に襲いかかるのだから。さらには、それらの事件の背後に1人の人物が浮かび上がってくる。それも八雲と因縁の深い、宿敵が。
最大の事件と最強・最恐の敵との戦い。それがこの『11 魂の代償』から盛り上がっていく物語なのである。
『11 魂の代償』の巻頭にこうある。
「私の行いを蛮行だと言う人に問いたい。/あなたは、愛する人の為に、何を犠牲にしますか?/私は、全てを捧げた──。/それだけのことだ。」
「私」とは誰だろうか。読者にはぜひ読む前と読んだあとにこの文章を噛みしめてほしい。というのは八雲と宿敵、この2人のどちらの言葉であってもおかしくないからだ。
宿敵は大切な人を失っている。八雲もまた、いまでは晴香という存在がいる。大切な存在を得たが故に、八雲はその人を失う恐怖を初めて知ることになったのだ。晴香の命が脅かされたとき、八雲はどうするだろうか。
1人はすでに失った人のために一線を越え、もう1人は大切な人を取り戻すために自らの命を懸けようとする。善と悪、生者と死者、両者を隔てる一線はどこにあるのか。
八雲最後の戦いは、名探偵ホームズと宿敵モリアーティ教授の戦いにも似て、作者の神永学がシリーズを通じて読者に問いかけてきた問いの総決算だと言えるだろう。
最終巻は大団円となるのか、それとも悲劇に終わるのか。読者は期待と不安にふるえつつ、『11 魂の代償』を閉じることになるはずだ。そしてその後の展開は『12 魂の深淵』に書かれている。八雲の物語がどこに着地するのか、ぜひその眼でたしかめてほしい。
作品紹介『心霊探偵八雲11 魂の代償』
心霊探偵八雲11 魂の代償
著者 神永 学
定価: 880円(本体800円+税)
発売日:2021年10月21日
宿敵・七瀬美雪に晴香が拉致!? 大人気シリーズ、物語は最高潮へ!
八雲の宿敵・七瀬美雪の手により、晴香が拉致されてしまう。晴香の居場所を探す鍵は、四つの心霊現象のどこかに隠されているというのだが……タイムリミットが迫る中、八雲は重大な決断を迫られる。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322106000375/
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『心霊探偵八雲12 魂の深淵』(単行本)試し読み
<『心霊探偵八雲11 魂の代償』文庫発売記念>12巻の文庫化が待ちきれないあなたへ!『心霊探偵八雲12 魂の深淵』試し読みスタート! #1
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