『心霊探偵八雲11 魂の代償』文庫発売記念!!
『心霊探偵八雲12 魂の深淵』全11回大ボリューム試し読み
最終巻『心霊探偵八雲12 魂の深淵』文庫発売日はいつ? 待ちきれないあなたへ!
『心霊探偵八雲11 魂の代償』で起きた事件はまだ終わっていない――。
累計700万部突破の怪物シリーズ「心霊探偵八雲」。『心霊探偵八雲11 魂の代償』(角川文庫)の発売を記念し、続きとなる『心霊探偵八雲12 魂の深淵』の増量試し読み版を11日間連続にて配信!
一足先に続きを味わい、12巻を楽しみにお待ちください。
「心霊探偵八雲」シリーズ最終巻『心霊探偵八雲12 魂の深淵』2022年5月角川文庫より発売予定
角川文庫にて、本編の完結である『心霊探偵八雲12 魂の深淵』の刊行が、2022年5月に迫ります。
『心霊探偵八雲12 魂の深淵』と『心霊探偵八雲 COMPLETE FILES』、2022年5月に文庫版として発売です!
「心霊探偵八雲」とは? あらすじをおさらい
シリーズ累計700万部突破! 超人気スピリチュアル・ミステリー!!
「心霊探偵八雲」あらすじ
赤い左眼を持ち、死者の魂を見ることのできる大学生、斉藤八雲。ある事件をきっかけに同じ大学に通う小沢晴香と知りあった八雲は、その特異な体質で謎に満ちた怪事件に次々と挑むことに。自らの力に苦悩しながら、救われぬ魂と向き合っていく八雲。だが、やがて事件の陰に「両眼の赤い男」の存在が見え隠れするようになる。八雲と謎の男との因縁とは!?
そして晴香を始め、八雲を取り巻く様々な人々との関係の行方は――!?
シリーズ全巻はこちら!【神永学シリーズ特設サイト】
「心霊探偵八雲」シリーズ詳細:https://promo.kadokawa.co.jp/kaminagamanabu/yakumo/
『心霊探偵八雲12 魂の深淵』試し読み #1
怪物と闘う者は、その中で自らも怪物にならないよう、気をつけなくてはならない。
深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている──。
フリードリッヒ・ニーチェ
プロローグ
私は深淵の中にいた──。
身体と心の境界が曖昧になってしまうほどの深い闇──。
冷たく、静寂に支配されたその空間は、視覚ばかりではなく、聴覚、嗅覚、触覚といった全ての感覚を奪い、時間の流れさえも呑み込んでいく。
濃密で、重い空気に満たされたその闇の中、私は膝を抱えてじっと座っていた。
闇がじわじわと身体を侵食し、心を覆う壁を溶かしていく。やがて、外殻を失った私は、個としての存在を失い、闇そのものになる。
それは、死を意味していた。身体だけでなく、心も死んでいく。
怖くはなかった。
生きていることの方が、はるかに苦痛を伴っていたからだ。
それに比べれば、寒くて、静かで、真っ暗な世界は、とても優しかった。何より、平等だった。
このまま全てを忘れて、完全な無になる──。
何も見えない。
何も聞こえない。
何も感じない。
何も──。
…………
……
真っ暗だった空間に、小さい光が灯った。
二つの光。
赤い光だった──。
よく見ると、それは眼だった。
真っ赤に染まった瞳が二つ。じっと私のことを見ていた。
その眼からは、何の感情も読み取れなかった。ただ、目の前にあるものを、あるがままに捉えている。
あの眼に、私の姿はどう映るのだろう?
考えているうちに、闇の中からすっと抜け出るように、一人の男が姿を現した。
さっきの赤い二つの眼は、この男のものだったのだろう。
男は、ゆっくりと私に向かって右手を差し出してきた。
色が白くて、指が長い。
とても繊細で美しい手だった。
「私と一緒に来るか?」
男の声が、沈滞していた冷たい空気を震わせる。
私は、意味が分からず、黙ったまま男を見返した。男の声は平坦で、感情が読み取れなかった。表情もまた、微動だにしない。
「私と来るか?」
男が、もう一度問い掛けてくる。
この男は、私を連れて行こうというのか? 何の為に? 男の顔を改めて見返したが、赤い瞳は何も語らなかった。
だから──。
「一緒に行ったら、どうなるの?」
私はそう聞き返した。
痛いことには慣れている。身体の感覚を遮断して、それらをやり過ごす術も知っている。だけど──。
「君に、新しい人生をあげよう」
男は静かに言った。
「新しい人生?」
「そうだ」
男は小さく頷いた。
このとき、初めて男の頬の筋肉が緩み、小さく笑ったように見えた。
新しい人生が何か、私には分からなかった。だけど、男が笑ってくれたことが嬉しかった。
だから、私は男の手を取った。
見た目と違い、その手はとても力強かった。
そして──。
温かかった──。
さっきまで、あれほど暗かった世界が一変した。
きっと私は生まれ変わったのだ。
一
冷たい風は、容赦なく身体から熱を奪っていく。
だが──。
肉体が感じる冷たさなど、取るに足らない。
痛みも同じだ。
いくらでも耐えることができる。肉体的な感覚を遮断する術なら知っている。自分の姿を俯瞰で眺め、心と身体を切り離せばいい。
ちょうど、魂が肉体を抜け出したときのように──。
真に耐え難いのは、肉体の苦痛ではなく、心が感じるそれだ。
悲しみや苦しみ、怒りや憎しみ。そして喪失感から生まれる心の痛みは、肉体が感じるものの比ではない。
どんなに拒もうとも、容赦なく隙間に入り込んできて、病原菌のように、際限なく増殖していく。
それだけではない。
広がった苦痛は、ギリギリと嫌な音を立てながら、少しずつ精神を削っていく。そうやって削られ、歪んだ心は、二度と元に戻ることはない。
「あなたも、それが分かったでしょ──」
水門の管理棟の屋上に立った七瀬美雪は、白い息とともに呟いた。
だが、その声は、管理棟の脇で呆然と立ち尽くしている青年には届いていない。そもそも、最初から伝えるつもりはない。
彼は、今まさにそのことを体感しているはずだ。
走り去る救急車を見送りながら、彼が何を考えているのか手に取るように分かる。
怒り、憎しみ、悲しみ、あらゆる負の感情が入り混じり、巨大な渦になる。最初、他者に向けられていたそのうねりは、全ての光を奪い、やがては、後悔と喪失感に変貌し、自分自身に返ってくる。
彼──斉藤八雲は、深淵を見ているはずだ。
冷たくて、重い空気に満たされた深い闇の底。かつて、七瀬美雪が見たのと同じ世界。
八雲の心もまた──削られていくだろう。
そして、自分の形を失う。
それを想像するだけで、七瀬美雪の身体の内側から、熱を帯びた衝動が湧き上がり、自然と頬の筋肉が緩んだ。
確かめるまでもなく、恍惚とした表情を浮かべているだろう。
他人が苦しむ姿を見て興奮する嗜虐性は、生まれもって備わったものではない。その種は、誰の心の中にも宿っているものだ。
それが、発露するか否かは、環境によるところが大きい。
心の奥底に眠っている嗜虐性の種は、自らが痛めつけられることで発芽し、闇の中で成長を続ける。
そうなってしまえば、あとは花開く為のきっかけを待つだけだ。
自分がそうであったように、八雲も、長い間、深淵を見つめていれば、嗜虐性を剥き出しにするに違いない。
他人の苦しんでいる姿を見て、歓喜に打ち震えるようになるはずだ。
しかし、七瀬美雪の目的はそこではない。
もっと先にある。
「苦しいでしょ。悲しいでしょ。痛いでしょ」
そこまで言ったところで、七瀬美雪はすうっと八雲に向かって手を伸ばす。
離れた場所にいる八雲の身体が、掌の中に収まった。
「でもね──」
七瀬美雪は、八雲の身体を包み込むように、伸ばした手の先にある掌を握った。
メキメキと鈍い音を立てて、八雲の心の砕ける音が聞こえた気がした。
「まだ終わりじゃない。これから始まるの──」
七瀬美雪は、自らの拳の中にいる八雲にそう告げると、背中を向けて歩き出した。
より深い闇を探すように──。
つづく
(本試し読みは『心霊探偵八雲12 魂の深淵』(四六判単行本)を底本にしました)
10/21発売!『心霊探偵八雲11 魂の代償』(角川文庫)
心霊探偵八雲11 魂の代償
著者 神永 学
定価: 880円(本体800円+税)
発売日:2021年10月21日
宿敵・七瀬美雪に晴香が拉致!? 大人気シリーズ、物語は最高潮へ!
八雲の宿敵・七瀬美雪の手により、晴香が拉致されてしまう。晴香の居場所を探す鍵は、四つの心霊現象のどこかに隠されているというのだが……タイムリミットが迫る中、八雲は重大な決断を迫られる。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322106000375/
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ついに完結!!『心霊探偵八雲12 魂の深淵』(角川書店)
心霊探偵八雲12 魂の深淵
著者 神永 学 イラスト 加藤 アカツキ
定価: 1,540円(本体1,400円+税)
発売日:2020年06月25日
大人気「心霊探偵八雲」シリーズ、ついに完結!!
シリーズ累計700万部突破、16年間に渡って読者に愛されてきた「心霊探偵八雲」。そのフィナーレを飾る、待望の完結作がついに発売!!堂々たるラストを見逃すな!!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/321911000191/
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