【朗読つきカドブンレビュー】
編集部が選んだ腕利きのレビュアーが、今注目の本をご紹介!
本選びにお役立てください。
(解説者:池内万作 / 俳優)
カドブンを訪れて下さっている皆さま、こんにちは。
いかがお過ごしでしょうか。
今月紹介するのは恒川光太郎著『白昼夢の森の少女』。
このブックレビューは今回で25回目となりますが、これが恒川作品3冊目。
なんと約8分の1が恒川作品なのですよ(笑)
さてさて。
『白昼夢の森の少女』は10本の短編を収めた短編集となります。
深い山の中に迷い込んだ旅行者が、山を一またぎに往く超巨大生物に遭遇する「古入道きたりて」、時空を旅する船に乗り不老不死となった少女の話「銀の船」など「恒川作品だなあ」と思わず頬が緩む本書です。
中でも印象的だったのは「焼け野原コンティニュー」。
目覚めると記憶はなく、辺りは見渡す限りの焼け野原。自分は何者か、一体世界に何が起こったのか。答えを探しながらひたすら焼けた町を歩き続ける——という作品。
ディストピア的な世界観も素晴らしく、生きることの無情さと人の逞しさが描かれたこの作品はぜひ映像化されて欲しい(そして、できれば出演したい)、なんて思ったしだいです。
その他8ページほどのショートショート「海辺の別荘で」「オレンジボール」や、不条理な脱出ゲームのような「平成最後のおとしあな」など、「こんな作品も書くんだなあ」というような作品も入っているのが面白いところ。
ただ、その作品の幅の広さゆえか、最後まで「これはどういう意図の下に集められた作品集なんだろう?」という疑問を拭えずにいました。
ところがその謎は最後になって解き明かされます。
実はこの短編集、「本には収まらずに埋もれていた作品と、アンソロジーに収録された作品をあわせてまとめたもの」なんだそうです。
そんな本の性格上、巻末に作者による「作品解説」がついてくるんですが、これがまたいい。
「決められたテーマと枚数の中で話を書く」という職業作家の姿が垣間見えたり、「ホラー作家という立ち位置で、いつもの雰囲気、いつもの展開みたいなものを繰り返していると、割に早い段階で袋小路にはまることが予測できる」なんていう本人の戦略が語られていたり。
楽しい物語を読むのは至極ではありますが、その物語がどういう経緯で形になったかというのもまた、非常に興味深いところ。
「作品」を楽しみ、最後に「解説」で輪が閉じる。
『白昼夢の森の少女』、恒川ファンにはたまらない一冊かと思います。
もちろん、短編集なので読みやすいし色々な作品があって楽しいので「まずはちょっとふれてみようかしら」という読者には「いい入門書」なのかもしれません。
過去の恒川作品のレビューも載せておきますので、そちらの方もご覧になって下さい。
▷因果応報から逃れることはできるのか――。妖しくどこか懐かしい、恒川ワールドの原点 『夜市』
▷疲れきった会社員が選ぶのは、幸せな異世界か、滅亡寸前の地球か。せつない近未来ファンタジー『滅びの園』
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