【カドブンレビュー 朗読つき】
カドブンを訪れて下さっている皆さん、こんにちは。
夏も真っ盛りですが皆様いかがお過ごしでしょうか。
クーラーのきいた部屋でノンビリ読書するのもよし、あるいは開け放った畳の部屋で扇風機を回しながらゴロゴロページをめくるもよし。
そんな八月に紹介するのは恒川光太郎著『滅びの園』となります。
このレビュー読者の記憶には新しいかもしれませんが、実はつい先々月、この恒川光太郎さんのデビュー作でもある『夜市』を読んだばっかりなんですね。(『夜市』レビューはこちらから)
他の本も読んでみたい!
なんて思っていたら、今回のレビュー作品リストに恒川光太郎の文字が!!
さすがに直近だし無理だろうと思いつつ、希望を出してみたら、『滅びの園』が家に届いちゃったというわけ。
ホント、カドブン最高だぜ♪
そんな『滅びの園』は、ブラック企業に勤め、家庭もうまくいっていない疲れきったサラリーマン鈴上誠一が、見知らぬ駅で途中下車をするところから始まります。
気がつくと誠一は「おおまつり鉄道」の「中央広場駅」という聞いたこともない場所で目を覚ましてしまう。
彼の辿り着いたその町では、人は優しく、ちょっと働けば信じられないような大金をもらえ、暮らしには困らず、我々が住む現実よりも人が人として生きられる場所だった——たまに魔物が出てくる異世界だけど——。
前に読んだ『夜市』も異世界に迷い込む話だったので、今回も「また迷い込んでるなあ〜」と思っていたら、なんとなんと!
現実世界である地球は、クラゲのような巨大地球外生命体「未知なるもの」に取り憑かれ、「プーニー」なる生物が爆発的な増殖を起こし地球は滅亡の危機に瀕し、地球を救う鍵は「未知なるもの」に取り込まれた鈴上誠一が握っていることが判明!
そして、世界の存亡を賭けた戦いが始まる……
といった、どこか懐かしい異世界探訪と、ほんわかとしたSFの二重構造が楽しめるという、なんといったらいいんでしょうか、異世界、世界の終わり、ユートピア/ディストピア、筆者の好きな要素がほぼほぼ全て詰め込まれた作品でしてね。
ここまでいっといて今さらですけどね。
好きなんです、こういうの。
誰もが必死に自分や家族の幸せを願い、どこかで楽園に憧れつつ、目の前にある自分の世界を守りながら生きているし、時に人は団結し自分たちの住む世界を守るために戦います。
『滅びの園』は大きい意味でも小さい意味でも「世界を救う話」です。
でも、「存亡を賭けた戦い」に焦点を当てた作品というわけではなく、(恒川作品らしく)予想もしない展開を見せ、人が幸せでありたいと願うこと、自分の幸せと他者の犠牲、あるいは「真実とは何か」なんていう根源的な問いを投げかけてくる作品でもあります。
そして予定調和からかけ離れたエンディングは、長い余韻を残していくことと思います。
とはいえ、全体的には決して重苦しい話ではなく、ページをめくるたびに次々と展開していく話に振り回されて、夢中になって二日で読んじゃいましたけどね(笑)。
是非、本書の舞台であるどこか懐かしいユートピアや、滅亡の危機に瀕した地球に、そして恒川ワールドに迷い込んでみて下さい!