【カドブンレビュー】
水を燃やすことができれば……。
エネルギー問題を解決するために、水に注目した人や企業は多くあった。水素と酸素の結合体というエネルギーを創出するにはもってこいの物質には、どのようにすればその結合を解けるのかという大きな壁があった。
主人公の平原は、大手メーカー・王島電機に勤めている普通のサラリーマンだ。ある日、人事に呼び出されるところから物語は始まり、そこでリストラの告知を受けたことで平原の人生は一変する。
たまたまいい条件の募集を見つけ、再就職が決まる。だが、そこでの仕事は、自分が受けた境遇と同じく、3人の社員にリストラ勧告を行うというものだった。
3人の社員と話すうちに、3人は共通の起点からトラブルを抱えていることがわかった。そのトラブルの内容を探っていく中で、開発された「ニコラⅡ」という機器で「水が燃えるような現象」に遭遇したという噂を聞く。そしてその開発者は亡くなっており、服には燃えた形跡が残っていたのだ。
調査するうちに、ニコラⅡで本当は水が燃える仕組みが偶然開発されたのではないか、もしかすると大きな陰謀の渦中で開発者は亡くなったのではないかと疑惑が出てきた。事件の真相、機器の開発、さらに燃える水の謎、それぞれが絡み合い、物語は思いもよらない結末に向かうのである。
仕事に対する気概は一定はありつつも、波風立たない会話をしたり、自分にストレスをためないように周りに気を遣うなど、どこにでもいるようなサラリーマンの平原。
物語の前半は、会社のリストラに遭い、自分は不幸だ、会社は何なのだと文句を言いながら過ごしていた平原がどうしても好きになれなかった。文句を言う暇があるなら、自分で一歩を踏み出して解決に向かえばいいじゃないか!と、どうしても思ってしまうからだ。
ただ、転職してからの平原は、人が変わったかのように主体性を持って動き出す。平原がリストラ候補者の3人と話をし、3人とも同じ時期からトラブルが発生しているという謎に突き当たってからだ。平原は前半とは打って変わって覚醒し、事件の真相究明、燃える水の事業化の検討などに向けて、動き出すのである。
後半の平原は実にかっこよかった。自分の仕事の範疇を超えているような事柄にも突っ込んでいき、絡み合う謎を自らが主体となり、解決に向けて奔走する。平原が中心に立ち、物事を推進していく姿に、会社の中での主人公気分がヒリヒリと味わえる。
正直、序盤は大きな会社で主体性もなく働き、事なかれ主義で過ごしている平原に対してなんと情けないサラリーマンなのかと思ってしまっていた。だが後半になって打って変わり、調査をするうちに社長たちと連携して、会社の威信を自分で担うかのように、事件解決と事業を推し進める物語に変貌したのだ!
あらゆるステークホルダーの思いが交錯する中、そのロジックを一つひとつ解き進める様は非常に気持ちが良く、事件×企業変革の痛快サラリーマン小説だった。