朗読つきカドブンレビュー
カドブンを訪れて下さっている皆さま、こんにちは。
最近は幕末を舞台にした映画の撮影に参加したり、勝海舟と西郷隆盛の対決を描いた『麒麟児』のレビューを書いたりと、どこか幕末から明治に縁があるイケウチですが、今回は明治政府発足後の歴史を描いた評伝『狼の義』をご紹介いたします!
「新 犬養木堂伝」とあるように、本書の主人公は自由と平和を愛し清貧に徹し「憲政の神様」と呼ばれた犬養毅。
元々は従軍記者で学費を稼ぐ苦学生で、福沢諭吉に学び、大隈重信の下で働き、明治維新を成した薩長による「藩閥政治」に反対し続け、富裕層にしか与えられていなかった選挙権を政治生命を賭けて拡大し、最終的には第29代内閣総理大臣を務めた希代の政治家です。
そんな犬養毅の一生を軸に、明治、大正、そして昭和へと進む日本の軌跡を描いたのが本書となります。
ともかく印象的だったのが明治政府発足後の混沌とした日本です。
150年ほど前のこの国の選挙や国会は、ここまで不正や暴力が横行していたんですねえ。
ついこの間まで江戸時代を生きていた人間が、憲法を制定し議会を開きと、ゼロから民主主義国家を作るのだから無理もないのでしょうが、なんとも人間くさい混迷っぷりは、まさに「歴史は人が作っている」といった感じ。
この国の民主主義の黎明期を見られるのは本書の大きな魅力でしょう。
自分は「幕末」「明治維新」「近代日本」のように、歴史をいわば「チャプター」ごとに捉えていたように思えます。
しかし、歴史は過去の因果を抱えながら未来へと途切れることなく流れ続けていて、セクションで分けられるものではない――そのことを初めて実感させてくれたのもまた、本書かもしれません。
そして犬養毅ですね。
薩長が支配する政府や軍部と対峙し続け、人生の最後に内閣総理大臣となり、軍部を止め戦争を回避しようと必死に戦った犬養毅。
政治ではなにも変わらない、そんな諦観が定着してしまった今だからこそ、この国の行く末を案じ、信念を貫いた政治家がいたことを我々は知るべきでしょう。
歴史に明るい人なら、そんな彼の最後はご存じのはず。
本書の結末は、涙なくして読めません。