【カドブンレビュー】
菅野京平31歳。不登校の生徒の心を解きほぐし、始業式に一緒に登校する。そんな熱血先生。当然生徒たちにも慕われ、先輩教師たちの覚えもめでたい絵に描いたような理想の教師。
だが周囲の人々は彼の内面でくすぶる闇を知らない。空っぽの心を抱え、自分を偽りながら「良い教師」を演じ続ける自身に絶望する京平。こんなはずじゃなかった。自分は教師になるべきではなかった…。
そんな彼の前に現れたのは高校時代に京平の目の前で自殺した同級生の幽霊イシイカナコ。彼女の「人生やり直し事業」に巻き込まれ、高校時代に戻ってやり直しを始める京平だったが、手違いで高校生の自分ではなく周囲の友人たちの中に入ってしまい、彼らの目から自分を見つめ直すことになる。
ファンタジーっぽい設定と、幽霊であるイシイカナコのやんちゃなキャラクターのおかげで軽めな読み心地の作品だが、誰もが一度は考える「あの時に戻ってやり直せたら」という叶わぬ願いに小さな希望を与えてくれる。
やり直しなんてできないけど、失敗が許されないわけじゃないんだ。
物語終盤の京平の台詞を聞いて思う。
過去に戻ってやり直しができないことなんて誰もが分かってる。でも京平のようにどんなに絶望しても、生きてさえいればもう一度新しく始めることはできる。要はやるかやらないかだ。中年と呼ばれる年代の私でも「まだ20年、いや30年もある。」と思えば色々なことができる気がしてくる。
明るいキャラクターの裏に隠されたイシイカナコの悲嘆を思うとき、彼女は様々なことを教えてくれたのだと気付く。そして私たちが新しい一歩を踏み出した時、もう二度とやり直しができなくなってしまった彼女は、素っ気ない笑顔で「やればできるじゃん」と言ってくれるのかもしれない。
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