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レビュー

頭脳派犯罪少年が、個性的な仲間たちと〈世界の十一不思議〉を巡る大いなる冒険へ『アルテミス・ファウル』

 本書は、オーエン・コルファーのアルテミス・ファウル・シリーズの第四作Artemis Fowl:The Opal Deceptionの全訳です。
『オパールの策略』というタイトルから察しがつくように、本書には、二作目『北極の事件簿』に登場したオパール・コボイが再登場します。いわば、〝帰ってきたオパール〟の物語です。天才的頭脳をもつピクシーで、ゴブリンの犯罪組織と手を結んで反乱を起こしたあのオパール・コボイが、前回の陰謀を失敗に導いた全員に死をもって償ってもらわんとする大復Αふく讐劇になっています。復讐に燃えるオパールの執念はすさまじく、鬼気迫るものすらあり、ある意味あっぱれなほどの悪役ぶりといえるでしょう。十四歳になって人間的にもひとまわり大きくなった頭脳派犯罪少年アルテミスが、この最大級の敵を相手に、肉体派の忠実な従者バトラーや、勇気と機転が売りものの行動派のキュートな警官ホリー、ガス攻撃が特技の憎めない窃盗魔マルチら、おなじみの個性的な面々のサポートを受けながら、強固で見事なチームワークを組んで危機また危機の連続を乗り越えていき、息をもつかせぬペースで冒険がくりひろげられます。
 ただ、この邪悪な陰謀劇の中で、これまで大きな役割をになってきた登場人物のひとりが悲劇的な死をとげてしまいます。映画や小説のシリーズものでは、毎度おなじみの重要な登場人物は死なないものと相場が決まっているのに、まさに衝撃的で信じがたいことです。ましてや児童文学なのに。まさかという展開ですが、あるいは、これがドラマ作りの現代的な流れのひとつなのかもしれません。
『オパールの策略』はまた、三作目の『永遠の暗号』で地下世界の妖精の記憶を消去されてしまったアルテミスがどうなったか、いかにして記憶をとりもどすか、その答えにもなっています。読者のみなさんの想像と同じだったでしょうか、違っていたでしょうか。
 そして、本書の最後には、あっと驚くようなホリーの決断が待っていて、シリーズの未来を大きく変える意外な展開を見せます。シリーズものは、こうした変化があるのも醍醐味のひとつといえるでしょう。
 ところで、本書には、〈世界の十一不思議〉という、廃墟と化したテーマパークが出てきます。妖精が人間世界の七不思議を模して建設したテーマパークで、そこにあるアルテミス神殿がアクションの舞台になるのですが、アルテミスという名前からして作者の創造した架空のものではないかと思いきや、これは実在するものです。
〝エフェソスのアルテミス神殿〟として知られるその建築物は、ギザの大ピラミッドやロードス島の巨像やバビロンの空中庭園などとともに、古代の世界の七不思議のひとつに選ばれています。紀元前七〇〇年頃に、ギリシアの女神アルテミスを祭るためにエフェソス(現在のトルコ)に建造されました。ただし、残念ながら、現在残っているのは復元された柱くらいで、原形はとどめていません。
 ここで待望の映画化の話を。アルテミス・ファウル・シリーズはこれまで何度か映画化の話があったのですが、残念なことに、そのたびに立ち消えになっていました。最初は、『キャッツ&ドッグス』で知られるカナダ人監督ローレンス・ガターマンによって映像化されることになりましたが、いつしか宙ぶらりん状態に。つづいて、アイルランドのジム・シェリダン監督による映画化の話が持ち上がりましたが、これまた頓挫。作者オーエン・コルファーは「アルテミス・ファウルの映画ができるのは私の死後だろう」と冗談交じりに嘆いていたほどでした。ところが、オーエン・コルファーがまだ元気なうちに、とうとう映画化が実現したのです。しかも、なんとディズニー映画に! 監督を任されたのは、実写版『シンデレラ』の監督や『ハリー・ポッターと秘密の部屋』の出演で知られるケネス・ブラナー。アルテミス・ファウルを演じるのは、千二百人あまりの候補者の中から選ばれたアイルランドの首都ダブリン生まれの新人フェルディア・ショー。『恋におちたシェイクスピア』でアカデミー助演女優賞を獲得したジュディ・デンチも、妖精警察のルート司令官の役で出演します。
 なお、本書に続くシリーズ五作目『失われし島』では、アルテミスのライバルの十二歳の天才少女が出現、二人の知恵比べが読みどころの一つになっています。『オパールの策略』のラストで再出発を誓うホリーですが、彼女がどんな道を歩むのか、その答えも五作目にあります。気になる方は、そちらもどうぞ。

  二〇一九年一月
大久保 寛 

書誌情報はこちら≫オーエン・コルファー 訳:大久保 寛『アルテミス・ファウル オパールの策略』


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