【カドブンレビュー】
今月読ませていただく作品を選ぶ中で、ふと目に止まったのが本作だ。
私は、大学の専攻分野が法律であったことと、小会社の代表取締役社長の経験もあるので、今回の作品のテーマである「法律×経営」という分野に自ずとひかれていたのだと思う。
読み始める前には、「法律を駆使しながら経営が傾いている企業をどのように建て直すのか」という、法律のスキームを紹介しながら再建劇を楽しめるものかなと想像していた。読み進めていくうちに、この想像は良い意味で裏切られた。
この作品は、再建弁護士である村松謙一さんが「再建を正義、倒産を悪」として、徹底的に企業を生かすことに命をかけた実録のストーリーであった。法律のスキームを用いた判例問題のような話ではなく、倒産の危機を迎えている社長たちの想いを重視した、血の通った会話があふれていたのである。会社を潰してしまうことは、そこで働いている何人もの人やその家族の生活まで揺るがすことになってしまう。それを絶対に防ぐのだ、という熱い想いがひしひしと伝わってきた。
私が社長を務めていたときも、今、事業責任者を担当しているときも、詳しくは書けないが事業状況によって胃がキリキリするような場面は多々ある。そんな状況に覚えがあるからこそ、この作品を読んで、村松さんが徹底的に社長を支えるスタンスや、社長がサービスにかける想いを尊重するスタンスが心に染み入ってきた。読んでいて、まさに自分まで励まされたような気分だった。結局は、企業が立ち直るのかどうかは働く人たちのやる気にかかっているという言葉は、すごく背中を押してもらえるものだった。
日々、事業状況に四苦八苦している方にこそ、この作品を読んでもらいたい。ここに収録されている奮闘劇を通じて、自分もまだまだ諦めてたまるものか、と、やる気がみなぎってくるだろう。
書誌情報はこちら≫著者:村松 謙一 / 構成協力:石村 博子『いのちの再建弁護士 会社と家族を生き返らせる』