【カドブンレビュー】
平田篤胤。江戸時代後期の国学者であり神道家。
本書は彼が出会った少年・寅吉が、謎の老人に導かれて訪れたという天狗が住む異界・仙境の様子について語った内容を記した『仙境異聞』の中から、興味深いエピソードを抜粋した現代語訳版である。
1話2〜3ページ足らずの短い逸話をまとめたものだが、基本的に篤胤らが質問し寅吉が答える、という形になっている。この聞き役となる「篤胤とゆかいな仲間たち」がよい。衣食住など異界での暮らしぶりをはじめ、杉山僧正と名乗る師匠のこと、修行のこと、天狗のことなどを、大の大人がよってたかって根掘り葉掘りとにかく聞きまくる。しまいには「仙境に男色はあるのか」とまで尋ねる始末。もはや好奇心丸出しのオッサン集団である。
そんな大興奮のオッサン集団とは対照的に寅吉は冷静だ。それぞれへの回答は非常に具体的でまさに見てきたかのよう(いや実際見てきたと言っているのだが)。驚くのは寅吉が書いたという図や不思議な文字まで掲載されている点だ。
一体寅吉が訪れた場所とはどこなのか。異人に連れられて行った外国だの、宇宙人にさらわれただの、想像力豊かな子供の妄想だの、諸説あるようだが、ここはやはり何も疑わずに「天狗の住む仙境へ行った」と考えるべきだ。そう信じるだけの説得力が寅吉の話にはある。なにも私がUFO・UMAの類が大好きな夢見るオッサンだからそう言っているのではない。そもそも日本の長い歴史の中で天狗や河童が「いない」ことを証明した学者はいないのだ。だからこそ篤胤らも夢中になったに違いない。
訳者である今井氏の手によりほどよく現代語訳されており、江戸時代の雰囲気を味わいながらサクサク読める手軽さも本書の魅力。教科書にも載るほどの歴史的国学者を虜にした寅吉少年の摩訶不思議体験談をぜひご一読あれ。
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