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レビュー

キャッチーでスリリングな新シリーズ誕生! 『グアムの探偵』

 チャモロビレッジをひやかして、手を繋いで歩く恋人岬。買い物はまとめてマイクロネシアモールで、ホテルはやっぱりタモンエリアが便利かな。ステーキ、シュラスコ、シーフード、うーん、何を食べようか――?
 日本から飛行機でわずか四時間のグアムは、安近短でアメリカ気分が味わえる、人気の観光地である。ほぼほぼ日本語が通じるし、ほぼほぼ治安も悪くない。「安い」だけでなく「安心」&「安全」。海外旅行に不慣れな若年層から遠距離移動が厳しくなったシニア層まで楽しめる気軽なリゾート、というイメージがある。
 この十月から二ヵ月連続でリリースされた松岡圭祐の新シリーズは、そんな身近な楽園で、探偵業を営む日系人の男たちが主人公だ。
 グアム最大の町デデドに、アーリーアメリカン調の平屋建て事務所を構える「イーストマウンテン・リサーチ社」を取り仕切るのは、家長で七十七歳になる元警察官のゲンゾー・ヒガシヤマ。幼少期に渡米し、妻のエヴァはフランス系アメリカ人だが、本人は純血日本人である。加えて事務所の主力メンバーとなるのは、日本人の妻を持つ四十九歳のデニスと二十五歳のレイ。ふたりはゲンゾーの息子と孫で、つまり三世代探偵、ということになる。
 日系人の探偵ゆえに、言葉の不自由なく厄介事を相談できるとの情報がネットや口コミで広まり、イーストマウンテン・リサーチ社には、日本人の観光客や移住組から様々なトラブルが持ち込まれてくる。第一作では女子大生の友人が行方不明になった、日本から追いかけてきたストーカーに悩まされている、小学三年生の息子を誘拐したと連絡があったなどという「相談」が「事件」へと発展していくスリリングな展開に興奮し、その事件の真相に時として大いに心を揺さぶられもしたが、このほど刊行された第二弾、『グアムの探偵2』も興味深い依頼が続く。
 探偵業法によって国外では活動できない日本の調査会社から委託された、不倫旅行の追跡調査。人気のビーチで財布とパスポートを盗まれ、警察に同行して欲しいと駆け込んで来た二十代女性。グアムって、不倫旅行の定番なのか! なるほどこんなビーチの盗難ってあるある! などと気楽に読み進められもする。しかし、もちろん、それだけではない。
 グアム警察が慢性的な人員不足で頼りにならないこともあり、イーストマウンテン・リサーチ社では、地元民たちからの依頼も仕事の約半数に及ぶのだが、浮気調査が主な日本の探偵事務所とは異なり、準州政府公認の私立調査官で刑事事件に関わることもできる「グアムの探偵」は、重大事件の捜査を担うことも少なくないのだ。元警察官のゲンゾーだけでなく、ロス市警に勤務していた過去をもつデニスも、警察学校の研修とペーパーテストを受けて探偵の資格を取得したレイであっても、時として命の危険に晒される。
 第三話「天国へ向かう船」では、レイ自身が拉致され、思いもよらぬ場所に監禁され、第五話の「センターコート@マイクロネシアモール」では、爆弾テロ予告を受けたライブ会場の警備に駆り出される。そうしたシリアスな事態にも、車椅子マークの駐車スペースに健常者が停めれば三百〜五百ドルの罰金が科せられるといった情報が自然に盛り込まれ、事件解決に繋がる一因になっているのも読みどころだ。
 淡路島ほどの面積でしかないグアムは、その三分の一を米軍基地関係の施設が占め、多くの軍関係者も暮らしている。物の見方も考え方も常識も、観光客と地元民、軍関係者ではそれぞれに違う。読者は、その差異を理解している、移民でありハーフやクォーターでもあるヒガシヤマ家の三世代探偵たちによって、「ほぼほぼ」の範疇の外のグアムを知ることができるのだ。
 緊張、緩和、そして興奮。人気シリーズとの作品リンクもファンとしては嬉しいが、松岡作品を未読の方もぜひ気軽に手に取ってみて欲しい。グアム&松岡圭祐の奥深い魅力を、堪能できるだろう。

>>松岡圭祐『グアムの探偵』


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