【カドブンレビュー】
NH●の教育テレビに「ねほりんぱ●りん」という番組がある(現在はシーズン2が終了)。少年院経験者やヒモと暮らす女など、顔だしNGのゲストが、壮絶な半生や現状を赤裸々に語る。
ただ、ゲストはブタの人形、聞き手はモグラの人形に扮することで、一見子ども向けの人形劇だ。
聞き手の絶妙なツッコミもあって、笑いあり、味わいありの番組に仕上がっている。
『新版 母さんがどんなに僕を嫌いでも』を読んで、この「ねほりんぱ●りん」を思い出した。
作者・歌川たいじさんの壮絶な半生を“一見コミカルなマンガ”というフィルターを通して描くことで、逆に見えて来るものがある。
歌川さんは町工場を経営する夫婦の元に生まれた。
父はほとんど家族に関心を持たない上に、女の影があり、母とのケンカが絶えなかった。
母はすごく美しい人だった。
だから小さい頃からずっと母に愛されたかった。なのにいつも邪険にされた。まとわりつこうとしては、何度も手を上げられた。母が姉だけを連れて家出したこともある。
学校では、激しいいじめや仲間はずれの対象になっていた。
「みっともない」「気持ち悪い」と家でも学校でも言われ続けた。
その後、歌川さんと母との仲はますます悪化。17歳の時、ついに家を飛び出すことになる。
そんな歌川さんがどうやって母親との確執を乗り越えたのか、どのようにいじめのトラウマを克服して来たのか。二十数年に及ぶ苦闘の歴史が、たった150ページ弱のマンガの中に、赤裸々に、濃縮されて描かれている。
このようにシリアスな告白本は、感情移入することがつらすぎて、時に読み進めることができなくなる。
しかし、マンガの絵柄がコミカルかつ明るいので、読者は本を閉じることなく、適度な距離感で読み進めることができるのだ。
歌川さんの思いがすんなりと心に入ってくる。
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森さん作:幼い頃の歌川さんと”ばあちゃん”のイメージ
そして、この本には歌川さんが変わるきっかけを作る、かけがえのない人たちが登場する(もちろんコミカルな絵柄で!)。
金持ちの息子“キミツ”もその一人。「貧乏人は働きなさい!」などと歌川さんに対して毒を吐きまくる。すぐにお互い手が出るような関係になるが、なぜか歌川さんから離れていかない。
彼とのエピソードを読んで、私が小学生の時のことを思い出した。
ある日、近所に障がいのある少年が引っ越して来た。
いつも笑顔で前向きだったが、片足をひきずり言語障がいもあった。私も、恐らく他の多くの子どもたちも、同情を感じて彼には気を遣っていた。そんな中、ひとりの子は、彼がみんなから遅れれば、「早くしろよ」とせかし、しゃべっていることが分からないと、ぞんざいに聞き返した。
だが、いつの間にか、この二人がいちばん仲良くなっていたのだ。恐らく、互いのいいところも悪いところも含めて認め合っていたのではないか。
同情して一定の距離を置く人間と、誰にでも遠慮なく思ったことをぶつけるフラットな人間、どちらが上等な人間なのか、と子どもながらに自分を恥じたのだった。
歌川さんを思うからこそのキミツの言葉は、時に大きな力で読者にも迫って来る。
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森さん作:キミツ
様々な出会いを通して、歌川さんが一進一退を繰り返しながら、自らを変えていく奇跡。「幸せになるための格言」のような重みのある言葉の数々。同じ悩みを抱える人だけでなく、すべての読者を勇気づけてくれる本だ。
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森さん作:大将と奥さん
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