カドブンレビュー×カドフェス2017
好きな人を失う代わりに、世界が救われる。
世界が滅びる代わりに、好きな人と最期まで一緒にいられる。
あなたならどちらを選びますか?
ある日、地球を襲った「塩害」。
人を「塩」と化し、命を奪うその災害は拡大を続け、遂に世界を滅ぼそうとしていた。
「塩害」によって身寄りを亡くした女子高生の「真奈」。そんな真奈を秩序が失われた街で暴徒から守ってくれたのが元航空自衛官の「秋庭」だった。
極限状況で煌めく真奈と秋庭の恋。二人だったら世界が終わりゆくのも怖くない。
最期の一瞬まで二人でいる。
そんな決意をしかけた時だった。
「世界とか、救ってみたくない?」
塩害の原因を突き止めた自衛隊が秋庭に作戦への参加を求めてきたのだ。
しかし、それは命の保証のない危険なミッションだった。
果たして秋庭は引き受けるのか。そして、その時、真奈は――。
当初、お互いの関係をあくまで「保護者」と「被保護者」と割り切ろうとする真奈と秋庭が切ない。そう思う事で、「他人」のままでいる事で、何とか自分を保とうとする二人。大切な存在が出来た瞬間、それを失ってしまう恐怖に耐えられなくなるから。いつ塩になってしまうか分からない世界で、それはあまりにも辛いから。
けれど、どんな明日が待っていようと、いや、明日が来る保証なんてなくても、恋する気持ちは止められない。
照れ笑いした真奈を秋庭はいきなり強く抱きしめた。真奈が息を飲む。すくんだように体が固くなっていたが、やがておずおずと体の力を抜いた。 「……秋庭さん?」 「約束する」 秋庭は真奈を抱きしめたまま、誰もいない虚空を睨んだ。 「もう二度と他人とは言わない。二度とだ」
“人生の終わりは突然やって来る”。
日頃、そんなフレーズに触れる度、限られた自分の時間を有意義に使わなくては、と思う。
でも、もっと重要な意味が潜んでいる事を『塩の街』は教えてくれる。
それは、大切なあの人もいつかはいなくなってしまう、という事だ。
その残酷な真実を受け入れて、共に乗り越えていく二人の物語に、一緒にいるためなら世界さえ救おうとする真奈と秋庭に、恋せずにはいられない。