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連載

コロナの時代の読書〜私たちは何を読むべきか vol.1

人生のしまい方を学ぶ――有川ひろ【コロナの時代の読書】

コロナの時代の読書〜私たちは何を読むべきか

文字と想像力があれば、人はどこにでも行ける。
世界の見え方が変わる一冊、ここにあります。

有川ひろさんの選んだ一冊

『ひとりでしにたい』

カレー沢薫・著 ドネリー美咲・協力/講談社
https://bookwalker.jp/dedc380e82-5811-422c-b973-5cd28862e2b3/



 コロナが流行ろうがネクストコロナが流行ろうが、人間の本質というものはあまり変わらないと思っているし、小心者なので主語を大きくして語るのも苦手だ。

 なので、自分にとって変わらないであろうテーマを探してみた。

 いかに生きていかに死ぬか。というと話が大きく聞こえるが、要するに人間は生まれてきた以上必ず死ぬもので、人生も折り返しを過ぎると自分の死に様がちらりとよぎるようになってくる。

 私は定期的に断捨離を敢行しているが、これは自分の死に様を意識しているからだ。もっと率直に言うと、ゴミ屋敷を残して死にたくないと思っている。私には行政介入案件スレスレのゴミ屋敷を作って死んだ親類が何名かおり、片づけ下手な自分にその血が流れていないわけはないという確信がある。そこで「捨てる」という筋力を衰えさせないように半ばトレーニングとして主にクローゼットや物置を断捨離している。

 さて、ここに紹介する『ひとりでしにたい』(カレー沢薫/講談社)は、「もし明日急死するとして自室に他人に見られたらやばいものがある」という人にはぜひ読んでもらいたい。

『ひとりでしにたい』は主人公の伯母が汁になって孤独死し、死後に発見された吸引バイブで生前の尊厳までも脅かされてしまうという、今ほんのりと孤独死を意識しつつある全ての世代を震え上がらせるに足るインパクトを以て始まる。

 吸引バイブとまではいかずとも、今すぐ死んだら「困る!」と叫んでしまう物品が皆さん一つや二つはあると思う。私は一つや二つどころではなくあるし、「これはもうちょっと老いてから処分すればいいか」と保留しているものを明日急死して家人に発掘されたら棺桶の中でもう一回死ねる。

 人間はおキレイお行儀だけでは生きていられない。善良な人々は世間さまに対してお行儀的に問題があろうと思われる各自の闇を自分の部屋から外へ漏らさないように節度を持って生きている。

 主人公の伯母さんも生前から吸引バイブをその辺に転がして生きていたわけではない。

 節度とは人間の尊厳を守る箱だ。この箱なしのありのままの私を世間に露呈しても何にも怖くないわという奴はマザー・テレサの生まれ変わりか稀代の詐欺師かどっちかだ。

 だが、生きている間は守れる節度も、「予期せぬ死」には無力である。主人公の伯母の吸引バイブは「予期せぬ死」でその存在が露呈した。

 そして、この吸引バイブは私たちの吸引バイブでもある(男性は男性向けの性具に置き換えてほしい)。すべての性具は死によって剥ぎ取られるかもしれない私たちの尊厳の象徴だ。

 既婚であろうが独身であろうが、子供がいようがいまいが、人付き合いがよかろうが悪かろうが、身辺整理もできぬまま誰にも立ち会われずコロッと死ぬということは、誰の身にも起こることなのである。

 そうなったとき、死後の自分の尊厳を守れるか。生きてきた自分の尊厳を守れるか。

『ひとりでしにたい』はそこにメスを入れた意欲作である。しかも、著者の独特かつ軽妙な筆致で、読者がリアリズムに殴り殺されずに各々「終活」を、「人生のしまい方」を学ぶことができる。今こそ社会に必要な名著だ。

 描かれるべきことは山ほどある。著者がこの作品で描くべきことを描き尽くせることを心から祈っている。

有川ひろ(小説家)



みなさんもぜひ「コロナの時代に読んで欲しい本」を投稿してください。
ご応募はこちらから→https://kakuyomu.jp/special/entry/readingguide_2020


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