【カドブンレビュー】
「特殊取調対策班」という効率的かつ公平な取り調べを行うことを目的とした部署に、「連続放火事件の次のターゲットを予測してほしい」との依頼が舞い込んで来た。
新米刑事の新妻友紀は、天才数学者であり大学の准教授ながら捜査に協力している御子柴岳人に「バイアス女」といびられながらも、事件の真相を探っていく。御子柴は、複雑に絡み合った事件に関する難問を、ゲーム理論を元にしたロジックを構築し、数学的にどういう答えが導きだせるか考え、解き明かしていくのだ。
捜査は一見スムーズに進むのだが、この事件には幾重にも重なる真相があり、物語は次へ、そのまた次へとどんどん展開されていく。
天才数学者という一面を持つ一方、わがままで自分の考えを全く曲げようとしない御子柴と、人の心を思いやる気持ちは強いが、どこか抜けている友紀のコンビが連続放火事件の真相に迫るという物語。
私はこの二人のキャラクターがとても魅力的に描かれていると感じた。
友紀は、御子柴にバイアス女と罵られ、デコピンをされたとしても、捜査の協力を得るために体を張って御子柴に向き合う。しかし、時々、御子柴の不遜な態度に腹を立て、まるでただの喧嘩のような口論になることも多い。
だが、物語が進むにつれて、実は御子柴も論理一辺倒ではなく、彼なりに人と向き合うことに真剣であることが分かった。友紀も御子柴の性格を深く理解しつつ、一方で自分がどう振る舞うべきかを自問するシーンもあり、シンプルだった二人の構図がより深く、面白いものになっていくように感じた。
特に私のお気に入りは、御子柴に言いくるめられているばかりの友紀が、自分の考え方を信じ、御子柴の作戦から逸脱していく場面である。御子柴が理論を展開し、真相が一歩ずつ明らかになるのも痛快だが、友紀の「覚醒」はいい意味で読者の予想を裏切る展開だった。
このシーンを読んだ時は、意地悪だった御子柴の変化とか、友紀が信念をもつように成長したとか、色々な思いがあふれて心が震えるものがあった。
この作品はシリーズの3作目だ。二人の関係も、時間と作品数を重ねるごとに、変わっていくところがとても面白い。次回作で御子柴と成長した友紀に会えることを楽しみにしている。