2017年に発売された作品の中からカドブンレビュアーが選んだ「2017年ベスト3」をご紹介いたします。年末年始のブックガイドにお役立てください。
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捉えた獲物だけでは飽き足らず、ゴミや死体でさえ横取りする。よその縄張りは侵すのに、侵入者は排除する。そうやって独り占めするくせに、天敵を追い払うときはきちんと群れをなす。鳴き声は煩く、肉を裂く嘴は鋭い。空から傍若無人に奪い去る。そんな黒い翼。
目的のためには手段を選ばない。利用できるものは全て利用する。巧みな言葉で他人を操り、自分すら騙す。誤りを認めず、過ちを繰り返す。いざとなれば、他人のせいにし、逃げ道を確保する。本音を脆い建前で隠し、振りかざした信念で攻撃する。そんな五本指。
私はどっちだろう。
人の姿に変身出来る三本足の烏、「八咫烏」の世界で渦巻く人間くさい思惑。彗星の如く現れた天才作家が描くファンタジーかつドキュメンタリーな「八咫烏シリーズ」第一部が遂に完結。
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エンターテイメントにおいて、「死」はスリルを演出する為の手段として登場する事が多い。そこに現実の痛みや悲しみは存在していない。むしろ、存在しない方が良い。悪者が死んだら素直に快感を得たい。
主人公の殺し屋「兜(かぶと)」にとっても、標的の「死」は金を得る為の手段であり、そこに現実感はなかった。そして、読者も鮮やかな「死」をもたらす殺し屋の活躍に純粋にワクワクさせられる。しかし、ある時点から「死」が生なましさを帯びて物語を牽引していく事になる。
「死」が悲しいのは、その人と二度と会えなくなるからだ。逆に、明日もその人に会いたいと思う事が生きる理由になる。この殺し屋小説はそうした哲学的なテーマまで突きつけてくる一級のエンターテイメントだ。
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私たちはそれぞれ誰にも明かす事の出来ない秘密を抱えて生きている。その秘密はその人が抱える真っ黒な闇に包まれ、あたかも存在していないかの様に隠されている。しかし、秘密は私たちの中心に根を下ろし、確実に人生を支配している。
『騎士団長殺し』では登場人物たちの明かされたくない秘密が次々と引っ張り出され、これでもかと暴れ回る。同時に、読んでいる私自身の秘密が力を宿して、呼び掛けてくる。逃れる事は出来ないのだと覚悟するくらいに。
ひっそりとした山の上のアトリエが舞台だと思って安心してはいけない。「騎士団長」の真っ赤な血が噴き出す村上春樹のメタファーの世界にあっと言う間に連れて行かれ、なかなか現実に還って来られなくなるのだから。
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