【カドブンレビュー×カドフェス最強決定戦2017】
「付喪神」と書いて「つくもがみ」。
100年の時を経て、人語を解する妖として命を得た道具たちのことを言うらしい。
物にも命が宿るとはよく言われることではあるが、そんな付喪神たちが登場するこの作品。
妖というといささか気味悪く感じる向きもあるが、この物語に登場する付喪神たちは、カバーイラストのイメージそのままに何とも憎めない愛すべき存在として描かれている。
時は江戸、清次とお紅の義姉弟が営む古道具屋兼損料屋、出雲屋が舞台である。
損料屋とは生活に必要な様々な道具を貸し出す商い、今でいうレンタル業だ。
そんな出雲屋が扱う品の中には長い年月を経て、付喪神となった道具たちも多数いるわけで……。
蝙蝠の根付けである野鉄、煙管の五位、掛け軸の月夜見、姫様人形のお姫、櫛のうさぎなど、出雲屋に集う付喪神たちはとにかくおしゃべりで、しかも好奇心旺盛。貸し出された先で見聞きしたことを、店に戻って仲間たちに披露するのを何よりの楽しみとしている。その会話をヒントに、あちこちから持ち込まれた難題を解決していく清次とお紅。しまいには小生意気な付喪神たちをうまく言いくるめて、怪しい貸し出し先に探りを入れるために送り込んだりする。
そんな出雲屋の周囲で巻き起こる騒動の数々を時に切なく、時にユーモラスに描いた短編が5編。
どの話にも、そのエピソードに関わる個性的な付喪神がゲストとして登場するのも楽しい。
こう書くと気軽な妖怪コメディのように感じられるかもしれないが、全編を通して程よい緊張感みたいなものが感じられ物語を引き締めている。
なぜか。その原因は付喪神たちが決して人とは会話しないことにある。
付喪神たちのおしゃべりはあくまで付喪神同士で行われ、人とは会話しない。話を聞きつけた人間が問いかけても返事をすることはないし、付喪神たちから話しかけることもない。どこか人という存在を小馬鹿にした付喪神たちの矜持とでもいうべきか。
とにかくお互いがお互いを意識しながら、決して直接交流することはないのである。
そんな奇妙な関係ながら、清次やお紅は付喪神たちとちゃんと通じている、そう感じられるのが何とも愉快で気持ち良い。
最終話で切羽詰まったお紅が、ついに正面切って付喪神たちに頼み事をする場面がある。物語のクライマックスだ。暗黙の掟を破って付喪神たちはお紅に返答するのか、それとも……。
付喪神たちの活躍を描くミステリ仕立ての短編集ではあるが、物語を通してお紅の想い人である佐太郎と、義姉に恋慕する清次の三角関係の顛末も描かれる。
付喪神たちに囃し立てられ、背中を押され(?)、果たして清次は秘めた想いを成就させることができるのか?
スパイよろしく諜報活動を繰り広げる付喪神たちの活躍と合わせて、見どころたっぷりのお江戸人情エンタメ奇譚とでもいうべきこの作品。小憎らしくも粋で可愛い付喪神の魅力を存分に楽しんでほしい。
物語を読み終えたとき、きっと自分の身の回りの物たちに付喪神の姿を探してしまうこと請け合いである。