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レビュー

土に刻まれた謎を探る 『杉山城の時代』

 オーパーツという言葉をご存じだろうか。古代の遺物の一種を指す用語だが、それが発見された場所や使用されていたとおぼしき年代が、これまでの研究や定説とかけ離れており、なぜそこに存在するのか答えを出せないもののことだ。
 首都圏からほど近い埼玉県比企(ひき)郡に、そこにあってはならない城がある。それが、本書のタイトルにもなっている杉山城だ。
 この城の何がオーパーツなのかと言うと、縄張りすなわち設計が「あまりに緻密で論理的」(本文より)な上に、行き過ぎと思えるほど技巧的な点だ。それは、この城のコンパクトさと相まって「箱庭的名城」と呼ばれているほどだ。
 その縄張りがいかに精緻かは本書に譲るが、この城はあらゆる角度からの攻撃を想定して造られており、築城家は極めて経験豊富で賢い人物だったと想像できる。
 当初、この城は縄張りの完成度の高さや、城のある比企地方を長期間にわたって占領していたことから、小田原北条氏の手になるものと言われてきた。とくに天文(てんぶん)末年から永禄(えいろく)年間にかけて、北条氏康(うじやす)と上杉謙信の間で戦われた松山城攻防戦の際に造られた城の一つというのが定説だった。比企地方には技巧的な縄張りの城が多く、杉山城もこうした一群に含まれると思われたのだ。
 ところが二〇〇二年に発掘調査が入ることで、事態は一変する。城内から発掘した陶磁器などの遺物は、十五世紀末から十六世紀初頭の特徴を示していた。つまり北条氏の城ではなく、扇谷(おうぎがやつ山内(やまのうち)両上杉氏が関東の覇権を懸けて戦った長享(ちょうきょう)の乱当時に創築された可能性が高まったのだ。しかも杉山城の築城は一度きりで改修も施されていないので、両上杉氏のどちらかが造り、それを北条氏が改修したというわけでもないようだ。そこからさらに研究は進み、出土した土器の形式から、関東管領・山内上杉氏が創築した可能性が高いとなった。
 これで一応の結論は出たが、もちろん反論もある。
 まず出土した陶磁器類の年代比定ができたといっても、それらを長く使い続けてきた可能性がある限り、陶磁器類の時代比定は意味をなさない。しかも鉄砲の弾が出てきたことで、混乱に拍車が掛かる。両上杉氏が争った時代には、鉄砲は普及していないからだ。
 かくして後に「杉山城問題」と名付けられる論争が始まった。
 歴史学者、考古学者、縄張り研究家が一堂に会してのシンポを開催し、それぞれの持論の抱えている弱点や課題を洗い出し、相互批判を積極的に行った。それでも決定的なものは出ない。
 こうしたものの中には、天正年間末期の豊臣秀吉の小田原攻めに際し、北方から侵攻してきた前田利家軍が前進基地(陣城)として築いたという説まで飛び出した。これは畿内に築かれた陣城との類似点が多いという理由からだが、誰もが納得するものではなかった。
 本書には、そうした諸説や議論の経緯が詳細に書かれているだけでなく、縄張り研究者という著者の立場から、様々な城の事例を挙げて自説の論証を試みている。これが実に興味深い。
 謎の解明に一歩一歩近づいていく面白さは、まるで沢木耕太郎氏の『キャパの十字架』を読んでいるかのようだ。
 では本書がマニア向けかというと、とんでもない。本書には事例として挙げた城の縄張り図が多く掲載されており、また城郭用語についての説明もされており、城について知識のない読者にも十分に理解できるようになっている。
 最終章で著者は結論を述べているが、まだ完全にそうとは決められないとも付け加えている。
 さて、戦国時代の築城家が突き付けたこの謎に、われわれは答を見出せるのだろうか。現代最高の頭脳が集結しても、「杉山城問題」の結論は今のところ出ていない。本書を読み、実際に杉山城や近隣諸城をめぐり、この城郭オーパーツに、あなたなりの結論を出してみるのも一興ではないだろうか。


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