『つくもがみ貸します』『つくもがみ、遊ぼうよ』に続くシリーズ第三弾の登場である。またあの小生意気で可愛らしい付喪神たちに会えると思うとワクワクした。
物語の舞台は、深川の古道具屋兼損料屋の出雲屋だ。損料屋とは今でいうレンタルショップのこと。火事や水害の多い江戸では、家財道具は買うより借りて済ますことが珍しくなかった。
ただし出雲屋は、普通の損料屋とは少々趣を異にする。なんとなれば、出雲屋が扱う品物の中には、いくつかの付喪神が混じっていたからだ。
二〇一八年にはアニメ化もされたのでお馴染みの方も多いだろうが、付喪神というのは妖の一種である。人によって作られ、大事に使われて百年が過ぎた器物は妖怪に変化する。言葉を発したり、姿を変えて動いたり。出雲屋には根付や櫛、掛け軸、煙管、財布、姫様人形、双六などの付喪神がおり、時には何食わぬ顔をして客先に貸し出されたりしているのである。
この付喪神、いたずら好きのやんちゃ者ばかり。問題を引き起こしたのも一度や二度ではない。だが逆に事件や揉め事が起きた時、彼らをその現場へ〈貸し出す〉ことで情報収集できるという強みもある。かくして出雲屋には今日も厄介事が訪れる——。
というのが本シリーズの骨子だ。
出雲屋を切り盛りする清次とお紅のロマンスを主軸に、品物にまつわる事件を捕物形式で綴った『つくもがみ貸します』、ふたりの息子・十夜とその仲間が付喪神たちと一緒に子どもを巡るさまざまな事件に出会う『つくもがみ、遊ぼうよ』を経て、第三弾となる本書は前作から四年後。十夜が十五歳になり、跡取りとして出雲屋で働いている時代の物語である。
馴染みの店に貸し出されたはずの付喪神たちが、行李から出されてみるとまったく別の場所にいて、しかもそこで初対面の刀や茶碗の付喪神たちから世直しに誘われるという、なんとも素っ頓狂な「つくもがみ戦います」を皮切りに、今回も付喪神たちが巻き起こしたり巻き込まれたりする事件が連作形式で綴られている。
本書の読みどころのひとつは、第二話に登場する大江戸屏風だ。二百年前の江戸の風景が描かれたその屏風もすでに付喪神になっているのだが、その中にレギュラーメンバーの付喪神たちが入り込む、という外連味たっぷりの趣向が用意されているのである。
中に入れば、そこに描かれた二百年前の江戸に行けるわけで、その時間旅行的な設定はめちゃくちゃ楽しいし、それが後半の事件に大きく関わってくるくだりも実にエキサイティングなのだが、ここでこのシリーズ自体が時間旅行であることに注目願いたい。
シリーズ第一作と本作の間には二十年近い隔たりがあり、主人公も親から息子へ代替わりしている。だがその時間の流れの中にあって、付喪神たちだけは変わらないのである。時を経なければ生まれない付喪神が、実は唯一、流れゆく時の中で固定された存在であるというパラドックス。それがこの大江戸屏風のくだりで鮮明になった。これこそ時間旅行ではないか。
彼らの固定された視点で紡がれるからこそ、私たちは出雲屋一家の変化と成長に驚かされ、時を積み重ねるということの意味を心に刻めるのだ。著者の他のシリーズと比べて本シリーズの時の流れがとても速いのは、そんな時の流れが生むものを描くというのが、理由のひとつなのではないだろうか。
もうひとつの読みどころは、阿久徳屋いう商人とその養子・春夜の登場だ。自らを悪玉と呼んではばからない阿久徳屋の豪放磊落なキャラと春夜のスマートな魅力はこれまでの本シリーズにはなかったもの。さらに彼らの存在は十夜の出生の秘密(詳しくは『つくもがみ、遊ぼうよ』にてどうぞ)にも関わってきそうで、目が離せない。
ここに来てシリーズが大きく動き出した感がある。早くも次の巻が待ち遠しい。……待てよ、まさかまた十年とか飛んじゃうんじゃあるまいな?
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