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レビュー

見えない「思い」を受け取り、繋げてゆく者たちの物語『奇奇奇譚編集部』

【カドブンレビュー10月号】

「窓は開けないで。そこに女の子がいるから。」
そう言われて、青ざめた。なぜなら、私には何も見えなかったからだ。

世の中には二種類の人間がいる。
幽霊が見える人間と見えない人間だ。
幸いというべきか、残念ながらというべきか、私は見えない人間だ。上に書いたエピソードは実話で、数年前、霊感の強い友人と旅行した際に私が体験したことだ。宿泊先のコテージの窓を開けようとした、まさにその時だった。得体の知れない不気味さに、ただただ震えるしかなかった。

本作の主人公「熊野(ゆや)」は「見える」側の人間だ。駆け出しのホラー小説家である熊野は、「見える」ことを活かして、小説のネタを集めている。ただ、問題が一つ。怖がりなのだ。当然、幽霊に出会うとすぐさま逃げ出してしまう。そんな熊野のケツを容赦なく叩くのが、怪奇小説雑誌「奇奇奇譚」の編集者の「善知鳥(うとう)」だ。心霊スポットをリサーチして熊野を連れ回し、これでもかと言うほど取材させる。単に姿を「見る」だけでは済まさせない。なぜその霊がこの世に現れているのか、正体が分かるまでとことん追求させる。幽霊の前に半強制的に突き出される熊野はいつも涙目だ。ある意味、幽霊よりよっぽど怖いかもしれない。

ホラー小説にもかかわらず、二人のコミカルなやりとりには、くすりとしてしまう。同時に、熊野と善知鳥の絆に胸が熱くなる。善知鳥は信じている。熊野が「見える」ことを。そして、究極の恐怖たる作品をいつか書くことを。デビュー以降なかなか芽が出ず、小説を書く事に対しても臆病になっている熊野の背中を懸命に押す。

本当に変わりたいのなら、何かを徹底する勇気を持て。道化になるならとことん道化になれ。なれないんなら、身を削ってでも、とてつもないものに、すさまじいものに、向き合っていく覚悟を見せろよ。

(P.204より)

 
自分を信じてくれる善知鳥の想いに応えたい。熊野は幽霊だけでなく、自分自身と正面から向き合っていく。

そうして突き止めた幽霊の正体には、物語が宿っている。それぞれの幽霊には存在しているだけの理由があった。訳が分からないからこそ怖かった幽霊が一転、身近で人間的な存在に変わる。誰かの強い想いが形を得て、見つけてほしいと願っているようにも思える。そうした目には見えないはずの想いをしっかりと見つめ、伝えようとしていく熊野と善知鳥。二人が命を吹き込む幽霊の物語に、ページをめくる手が震えた。


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