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【観客動員1000万人突破!】この作品を細部まで血のかよったものにしているのは、もうひとつのテーマである「変化」だ――『小説 アナと雪の女王2』訳者あとがき

文庫巻末に収録されている「訳者あとがき」を特別公開!
本選びにお役立てください。

(訳者:越前敏弥・ないとうふみこ)

 世界じゅうで大人気を博した映画「アナと雪の女王」から六年。待望の続編「アナと雪の女王2」が、二〇一九年十一月、ついに公開され、日本では、最初の三日間の興行収入が二〇一九年に公開された映画でナンバー1という華々しいスタートを切りました。本書は、そのノベライゼーションFrozen 2: The Deluxe Junior Novelizationの全訳です。


小説 アナと雪の女王2

角川文庫『小説 アナと雪の女王2』


 前作「アナと雪の女王」では、魔法を使えるのはエルサひとりでした。だからこそ、なんとしても力を抑えなくてはというエルサと両親の苦悩が生じたのですし、力を持つことが広く知られてからは、魔法をおそれる人々とのあいだに対立が生まれました。
 そのラストシーンで、エルサが自分の力に対する恐怖を克服し、魔法を自由に使いこなせるようになってから三年。「アナと雪の女王2」は、アレンデールの国が栄え、エルサとアナの姉妹が愛する人たちに囲まれて幸せな日々を送っているところからはじまります。けれどエルサの心の奥には、いまだに解けない疑問がひそんでいました。なぜ自分だけが魔法の力を持っているのか。自分はいったい何者なのか。
 そんな疑問をさらに強く意識するようになったのは、自分にしか聞こえないふしぎな呼び声を聞くようになってからでした。エルサは平穏な日々を乱されることに不安をおぼえながらも、しだいにその声に引かれていきます。魔法を使えるだれかが呼びかけてくるのだろうか。ならば自分に魔法の力がある理由も教えてもらえるのではないか……。そしてある夜、エルサが声に応えて力を解きはなつと、自然の精霊たちが目ざめ、アレンデールは大混乱におちいります。エルサとアナ、クリストフ、オラフ、スヴェンは、声と精霊の謎を解いてアレンデールに平和を取りもどすため、精霊たちが住むという〝魔法の森〟をめざして、未知の旅へとふみだします。
 その〝魔法の森〟で、エルサははじめて、魔法の力を持つ自分以外の存在――自然の精霊たち――と対面します。しかし、この森は外の世界から切りはなされていました。エルサとアナの父である故アグナル国王の少年時代に、そこに暮らすノーサルドラという遊牧の民とアレンデールとのあいだに戦いが起こって、精霊たちが怒り、森は濃い霧に閉ざされてしまったのです。はたしてアナとエルサは、過去のまちがいを正して、精霊たちの怒りをしずめ、分断を克服することができるのでしょうか。

 分断されたふたつの世界とその架け橋というのが、「アナと雪の女王2」の大きな骨格だとすれば、この作品を細部まで血のかよったものにしているのは、もうひとつのテーマである「変化」だと言えるでしょう。成長であれ、自分さがしであれ、あらゆる変化は、不安や困難をともなうもの。おなじみの登場人物たちの直面する変化が、わたしたちの胸を大きくふるわせるのです。
 エルサは本当の自分をさがすため未知の旅にのりだし、最後は母の子守歌でしか聞いたことのなかった神秘の川〝アートハラン〟をめざします。この小説版では、難破船を見つける場面や、アートハランを探訪する場面で、映画にはないシーンも加えて、エルサの動きや心情がよりこまやかに描きだされています。ぜひじっくりとご堪能ください。
 もちろん、変化をとげるのはエルサだけではありません。オラフは字を読むことを覚えて、いまやたいへんな読書家になっています。また、つねに明るい楽天家でありながら、不安や怒り、悲しみといった、いままでにない感情も体験することになります。特に、洞窟でのアナとのやりとりは大きな山場のひとつです。
 クリストフも変化をとげています。前作では、強引すぎるほどの山男で、無骨ながら生きる知恵をたくさん持ちあわせ、道に迷ったことなどなかった彼が、恋に悩んで迷子のように途方にくれるのですから。でも、そうやって本音を吐露するようになった彼が終盤で連発する名言は、映画で観ても文字で読んでもしびれます。
 そして、だれよりも大きな変化をとげるのは、実はアナなのかもしれません。前作で、エルサを追って旅に出たとき、アナの最大の目的は「エルサを連れもどす」ことでした。長らく姉と引きはなされていたアナには、ともに暮らすことがいちばんの望みだったのです。しかし今作でのアナは、ひとりでアートハランに向かおうとするエルサに、自分もいっしょに行くと主張しながらも、こう口にします。「別にエルサを止める気なんてないの。エルサは好きな道を進んでかまわない」と。それは姉との強い絆に自信が持てたからこそ出てきた台詞ですし、アナの成長を示すことばでもあります。真っ暗な洞窟で、絶望のなか、それでも小さな一歩をふみだしていこうと自分に言いきかせるアナの姿は、分断と混迷の時代を生きるわたしたちにエールを送っているようでもありました。

 先ほども述べたように、この小説版には、映画にないシーンがいくつか描かれています。ノーサルドラのイエレナとアレンデールのマティアス中尉が森に閉じこめられてからの日々を描く物語(二十一章)などは、まるで短いスピンオフ小説のようでもあります。そのほか、映画では一瞬の出来事だったところがくわしく説明されているなど、単にストーリーを追っているだけの作品ではないので、映画を何度観た人にも、もちろん一度も観ていない人にも、じゅうぶんに楽しんでいただける内容です。


小説 アナと雪の女王

角川文庫『小説 アナと雪の女王』


小説 アナと雪の女王 影のひそむ森

角川文庫『小説 アナと雪の女王 影のひそむ森』


 角川文庫からは、前作の振りかえりに最適な『小説 アナと雪の女王』、前作と本作をつなぐオリジナルストーリー『小説 アナと雪の女王 影のひそむ森』も出版されていますので、ぜひあわせてお楽しみください。

〈小説 アナと雪の女王〉シリーズ三部作の翻訳にあたっては、北田絵里子、国弘喜美代、熊谷淳子、倉科顕司、手嶋由美子、中田有紀、廣瀬麻微、茂木靖枝の各氏に協力してもらいました。この場を借りてお礼を申しあげます。

 越前敏弥
 ないとうふみこ

書籍の情報はこちらから

『小説 アナと雪の女王』
https://www.kadokawa.co.jp/product/321907000753/
『小説 アナと雪の女王 影のひそむ森』
https://www.kadokawa.co.jp/product/321907000752/
『小説 アナと雪の女王2』
https://www.kadokawa.co.jp/product/321907000751/
(リンク先:KADOKAWAオフィシャルページ)


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