小説の魔術師・久生十蘭が、大きな運命に翻弄される女性の生を鮮やかに描く。今も色あせない傑作ミステリ。
『あなたも私も』久生十蘭
角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開!
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『あなたも私も』著者:久生十蘭
『あなたも私も』文庫巻末解説
解説
何度か聴いたことがある、その人のバンドは「魔都」という題の楽曲を演奏しており、それについて s-ken は「久生十蘭の同名の小説の影響下、作詞作曲した」と語っていたのである。
その曲がどんな曲だったか、
それから何年か経って、その頃、住んでいたアパートの隣の隣の学生の部屋に「地底獣国」と題した文庫本があり、「なんじゃ、こら」と手に取ると作者が久生十蘭であったので、「あー、これがあの s-ken が言っておった久生十蘭か」と思い、それを借りて読んだのである。というのは噓で、直ぐには読まなかった。なんとなれば、その「地底獣国」という題名が、なにかこう噓くさいというか、子供だましの空想科学小説のように思われて、それを思えば「魔都」という題も
で今、自分は、筋のおもしろさに引きこまれて、と書いた。それは、それそのものは他にないおもしろさで、なぜその筋のおもしろさが他にないものなのか、という事には少しばかり心当たりがあるのだけれども、それよりなにより若い自分がまず
と言うとその表現だけが突出しているように聞こえるが、そんなことはなくて、そういう風にぐっとくる言い回しが到るところにあってその都度、
そうして読むうち右に言った、題の臭み、もまた作者の
そしてその事は物語・筋のおもしろさにも関係しているのではないかとも思う。どういう事かと言うと、筋というものは一般に低俗なものとして扱われる。なんとなれば筋に対する興味というのは、そもそもが好奇心・野次馬根性が根底にあり、人が物語の筋を追う時、その根底にある動機は、俗悪なワイドショーなどを見る時の動機となんら変わらないからである。それ故、「僕はもっと高尚な文学を追究するのさ。もっと人間の根底を
おもしろい筋をおもしろく表そうとすると当然のこと
しかるに例えばこの「あなたも私も」を読めば、その息をもつかせぬ急な展開に次ぐ展開に驚き惑いつつ、その成り行きに御都合主義ではまったくない現実味を感じて、読むのをやめられなくなるのだが、ここにはいったい
その一はその計算力で、人が思いもよらない展開を次々と繰り出して
だけど、その上にもうひとつあるその三とその四、実はこれがもっとも重要で、これさえあれば、もしかしたらその一もその二も必要ないのではないか、いやさ、これがなければその一とその二があって、読むものを楽しませることはできても、それ以上の意味はないのではないかと思われる事、があって、それは何かというと、
その三、わかりやすい正義や道徳に依拠せず、現実の中にある人間の欲心や不道徳を直視して、その欲心や不道徳の底の底で泥にまみれて底光りしてあるような人間の純一なもの、「あなたも私も」で言うなら、
その四、それら悪徳や純一なものから作者として一定の距離を保ち、それらをモンタージュして一幅の絵と
となるともはやこれは魔術ではなく
作品紹介・あらすじ
あなたも私も
著 久生 十蘭
定価: 726円 (本体660円+税)
発売日:2023年06月13日
13億円は私のもの? 気づけば大騒ぎの中心に!
売れないファッション・モデルとして貧乏生活を送るサト子。実は自らも知らぬ間に、時価13億円の鉱業権の相続人に指定されていた! あれよあれよという間にサト子は、一攫千金のにおいをかぎつけた実業家や弁護士らに囲まれることに。莫大な資産はいったい誰の手にわたるのか、肝心の鉱山の実体は――。小説の魔術師・久生十蘭が、大きな運命に翻弄される女性の生を鮮やかに描く。今も色あせない傑作ミステリ。解説・町田康
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